『母の日』編

「ボケーッと過ごす休日ほど、実に無益でありまた有益なものはないわけです。
 ただ、人という動物は世の中の些事に追い込まれて、せっかくの休日に平日のことを考えて時間を
無駄にしがちだったりします。また『休日にはレジャー!』『お洒落なカフェで優雅なブランチ!』
などなど、メディアの煽りを食って、『あるべき休日の姿』というのが流行として形成されつつもあ
る。この現代社会において『本当に何もしない』ということは、もしかしたら本当に贅沢なことなの
かもしれないわけですね」

こ『なにむずかしいこと言うとんねん!』
あ『アホのくせに……見ててイタいわ……』
 そう。
 俺の貴重な休日は、今まさに無駄な行動フェイズに費やされようとしている。
 
 ――目の前に居る、関西弁の双子によって。

 俺が切々と現代社会における休日の重要性について説いても、いかんせん彼女たちの未だ乏しい人生
経験ではやはり理解ができないようだ。
こ『どうでもええから、あそびに行くで! うんどーぶそくで、おなかプヨプヨになってもしらんで!?』
あ『ひきこもりを……きゅうさいする、ぼらんてぃあや』
 姉のこのみちゃんはテンション高めのマシンガントークで、妹のあかねちゃんは口数少なくピンポイ
ントで、それぞれ人の心を抉る。
 もともとはアパートのお隣さんだったのだが、カギっ子の二人を部屋に上げて夕飯を食わせたのが縁
で交流を持つようになった。一緒に温泉旅行にも出かけた仲ですよ、えぇ。
 だが、子供特有の元気にそうそう付き合ってもいられないわけで。
 日曜だというのにお母さんが出勤してしまったのせいで、二人とも暇を持て余してるようだ。まだ午
前中だと言うのに俺の部屋に押しかけて、遊べ遊べと騒いでいる。
 ちなみにお母さんは出版社で、『月刊 お姉ちゃん』なる雑誌の仕事してるらしい。聞けばどうやら
通販だけで売ってるんだそうだ。そういった形態の雑誌としては、異例な程の発行部数を誇るらしい。
タ「えっとね、俺今日はゆっくり休みたいんだけど」
 結局、冒頭の台詞の要点をまとめて言うハメになる。やはり子供には直球がよかろう。
双子『『あかん!!』』
タ「即答ですか……」
 ぶっちゃけ、俺のコンディションは、レポートを徹夜して片付けたためにひどく眠い。週明けに出せ
ばいいものを無理やり土曜日の内に終わらせたのも、今日をぐうたら過ごすためだというのに。
 あぁ、ダメだ。なんか色々めんどくさくなってきた……。
タ「ふああぁ〜〜〜」
双子『『まじめにきけ!!』』
 あくびしたら蹴られた。
タ「痛いよ……だいたい、二人とも学校の友達とかと遊べばいいじゃん。友達居ないの?」
あ『おるわ……あんちゃんよりは、遥かに……」
こ『みんな、ならいごとやらでいそがしから、あんちゃんでがまんしてるんやないか』
タ「へいへい……解りましたよ……」
 俺は重い腰を上げて、立ち上がった。
タ「それで、なにして遊ぶの?」
あ『…………りょうり』 
タ「へ?」
こ『りょうりや言うてるやろ! とにかく、ほれ! はよこんかい!!』
 そう言うと、このみちゃんは俺の手を掴んでグイグイ引っ張っていく。
あ『はやくせぇ……のろま……』
 あかねちゃんも負けじと反対の手を取った。
 あぁ、ガンダムと対峙したザクのパイロットってこんな気持ちなんだろうな。
 自分が破滅へ向かうのを止められないって言うか、諦めるしかないっていうか。
 しかもこっちは二対一だぜ? 勝てる気がしねぇっつーの。


 アパートのすぐ隣の部屋へ連れ込まれた俺は、すぐに台所へ通された。
タ「で? 何するの。昼ごはんには早いと思うよ?」
こ『う、うっさい! お昼ごはんやあらへんわ!』
あ『ケーキ……つくる……』
タ「ケーキ……? なんでまた、急に?」
 首を傾げる俺に、双子は呆れた顔を見合わせた。
 それから、思いっきり侮蔑の込めた目線で俺を見つめる。
こ『あんちゃん、おやふこーもんやなぁ! おかんがないてるで?』
あ『……ははのひ』
タ「……おぉ」
 ポンっ、と手を打つと、ようやく思い至った。なるほどね。お母さんのために、こっそりケーキを作
って驚かせてやろうと、そういう趣向ですか。いや、偉いねぇ。
 一人で感心する俺に、このみちゃんが口を開く。
こ『そんで?』
タ「え? そんでって?」
こ『ケーキって、どうやってつくんねん』

 ――――は?

タ「え? 知らないの?」
あ『知らんから、きいてるんやろ……あほ』
 うわ、開き直った。
タ「いや、俺も知らないけど……っていうか、知らないで作ろうとしてたの?」
こ『なんや、ケーキのつくりかたもしらんのかいな、おとなのくせに!』
あ『……やくたたず』
こ『せっかくつれてきたのに……つかえへんなぁ……』
あ『さすが……おやふこー』
 え? あれ? 俺が悪いのか?
 いや、そんなはずはないと思うんだが、この二人と話してるとそんな気がしてくる。
こ『せやな。とりあえずあんちゃんはぬきでやろか。けーきって、こむぎこでつくるんやろ? ここにあ
  るで、つよりきこ』
あ『……せや。あと、たまごと、さとう……』
こ『うんうん、こんだけあればイケるやろ。とりあえず、牛乳あわだてて、クリームつくろか』
あ『せやね……』
タ「待て待て待て待て」
 あまりにお母さんが不憫なので、作業を始める双子を制止する。
 とりあえず、その小麦粉は『つよりきこ』ではなく『きょうりきこ』と読むのであって、お菓子作りに
は向かないこと。あと牛乳をどれだけ泡立てても、絶対にクリームにはならないことを説明。
こ『そ、そんなんしってたわ! あんちゃんをためしただけや!(///』
あ『……じょうしき(///』
と顔を真っ赤にして反論する双子に対して、
タ「とにかく、そのままで待ってなさい」
と厳命し、自分の部屋へ戻る。
 つーか、ケーキのレシピに関しては開き直っておいて、『つよりきこ』を指摘されて怒るとは。
 ――世の中って理不尽だ。
 パソコンで料理系のサイトを当たりながら、俺は二度と戻れない平穏な休日に別れを告げたのだった。


 とりあえず、材料を買出しに出かけなくてはお話にならないので、二人を連れてスーパーマーケットへ。
 砂糖なんてみんな同じだと思ってたが、お菓子作りにはグラニュー糖とかいうのがいいらしい。それから、
生クリームと薄力粉。ベタにイチゴなんぞも買っておく。
 最後に、使えるものはないか、お菓子の素材コーナーを見に行く。
こ『なんやこれ、ぎんいろやん。食えるんかいな』
タ「それはアラザンというやつで、ちゃんと食えるよ」
あ『……これは?』
タ「カラースプレー」 
 さっき調べたにわか知識でどうにか答えると、二人は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
こ『なんや、つまらんなぁ』
あ『……せやな、おもんない』
こ『ちゅーか、おとこのクセに、おかしにくわしいって、しょうじきヒくわ』
 ……報われない努力って、あるよね。
 俺にどうせぇっちゅうねん。ちょっと泣きそうなのを我慢する。
こ『あ、これよくケーキについとるヤツやん』
 このみちゃんが、砂糖でできたメッセージ用のプレートを見つけて目を輝かせた。
タ「ん? じゃぁ、それ買う?」
こ『もち!』
 プレートと、チョコペンをカゴに入れると、今度はあかねちゃんが服の裾を引っ張ってきた。
あ『……これ、なんや? ねんど?』
タ「ちがう。それはマジパンだ」
 確か、アーモンドの粉にシロップを加えて固め、それを砕いてペースト状にしたものだ。
 粘土のように色々と形を作れるが、ちゃんと食べられるらしい。
あ『ふぅん……ほな、これも』
タ「へいへい……じゃぁ、色つけるヤツもいるか」
 数本の食紅を一緒にカゴに入れて、レジへ。いやはや、思わぬ出費ですなぁ。バイトの給料が入るまで、
あまったマジパンで生活とか嫌すぎなんですけど。


タ「さて、始めますか」
あ『さっさとせぇや……』
こ『うまくできんかったら、あんちゃんのせいやからな!」
タ「あれれ〜? 手元のレシピが涙で見えないよ〜?」
 出鼻をくじかれたものの、実はケーキ初作成に、ちょっと年甲斐もなくワクワクしてる俺が居るわけで。
レシピ調べてるうちに、面白そうな気配がしてきたのですよ、えぇ。っていうか、男で『お菓子作りが趣
味』とか、ちょっとモテるんじゃね? 料理ができる男って、素敵じゃね?
こ『なぁんか、またロクでもないことかんがえとるな……』
 心を読まれつつあるので、意識を目の前の材料に戻すことにする。
あ『……それじゃ、クリーム……』
タ「待てってば!」
 勝手にボールに生クリームをあけようとするあかねちゃんを、慌てて止める。
タ『クリームは、スポンジ焼いてる途中でできるから! 先に生地を作ろう。な?』
あ『……そこまで言うなら、しゃぁない……』
 なんか、この双子はクリームに思い入れでもあるのか?
タ「じゃぁ、まず卵を泡立ててくれるかな?」
こ『はいはい……っと』
 意外と器用に、このみちゃんは卵をボウルに割り入れて、泡立て始めた。
タ「へぇ、上手だねぇ」
 そう言って頭を撫でてやると、口を無理やりへの字にして
こ『こどもあつかいすんなや。あたまなでたら、てもとがくるうわ! やめぇ!』
と毒づいた。でも顔真っ赤。
あ『……こら、ニヤニヤすんなや……」
 妹さんがスネを蹴ってきた。確かにニヤニヤしてたかも知れんが、ここは『微笑ましく見守ってる』と言
って欲しい。
あ『ひまや……しごと、ないんか……』
タ「あぁ……えっと、じゃぁ、粉を振るってくれる? ダマにならないようにして」
あ『ん……』
 別のボウルと、ふるいを用意するあかねちゃん。
 そっちを横目で気にしながら見てると、後ろから突付かれる。
こ『あんちゃん、こっちはまだか〜?』
タ「あ、たぶん、そのくらいでいいと思う。そしたら、グラニュー糖を半分入れて……」
こ『はんぶんやな……』
あ『あんちゃん……できたで……』
タ「あ、えっと……じゃぁ、牛乳をレンジで温めて」
あ『ん……』
こ『あんちゃん、もうはんぶんはどないするんや?』
タ「えっと、最初の分が混ざったら――」
あ『あんちゃん、ぎゅうにゅう……どんくらい?』
タ「はえ? えっと、分量の分を全部――」
こ『あんちゃん、も う は ん ぶ ん は ?』
タ「えっと、だから、それがしっかり混ざったら……」
あ『あんちゃん……おんどのはなしや……どあほ』
タ「え? ちょ、ちょっと待って――」
こ『あんちゃん?』
あ『あんちゃん?』
双子『『あ〜ん〜ちゃ〜ん〜?』』
タ「だぁ〜〜〜〜っ!! 勘弁してくれえええぇぇぇ!!」
 双子の恐ろしいチームワーク質問攻めに、俺は悲鳴を上げた。


 なんだかんだで(←この言葉に込められた俺の苦労を察してくれると、とても嬉しい)生地ができあがり、
型に入れてオーブンへ。ちなみにケーキ型は100円ショップで買った。オーブン機能つきのレンジがあっ
たのは幸いだったな。
 とりあえず、焼き上がりまで20分ほどあるので、その間にトッピングを作ることにする。
タ「ほい、クリーム」
 生クリームに砂糖を入れたボールを、何気なくこのみちゃんの前に置く。本当になんとなくだったのだが
、あかねちゃんの顔が急に不機嫌になった。
あ『クリーム……ウチも……』
こ『あかんで、あーちゃん。あーちゃんは、ほかのおしごとがあるんやから』
 なぜか必要以上に上機嫌な気がするこのみちゃんを横目で見つつ、俺はあかねちゃんにマジパンを勧めた。
ここまで来てクリームごときでケンカなぞされては敵わない。
 ……どんだけクリーム好きなんだよ、この双子は。
 細かくちぎったマジパンに、食紅を混ぜ込んでいくあかねちゃん。やや黄色がかった白のペーストは、マ
ーブル模様に赤くなって、やがて小さな手によって均一なピンクに染まった。
 あかねちゃんの機嫌を取るべく、俺は積極的に話しかける。
タ「何作るのかな? あかねちゃん」
あ『……おかん』
タ「そっか、お母さんかぁ」
あ『はよ、じぶんのしごと……せぇや』
 けんもほろろだ。やれやれ。
 俺はと言えば、イチゴを切るところだった。刃物を使う仕事は、やはり俺がやったほうがいいだろう。
 ヘタを取って、スライスをしていると、後ろで声がした。
こ『あんちゃん、あんちゃん』
タ「ん? どした?」
こ『ほっぺにクリームついた。ふけや』
 振り返ると、確かに頬っぺたにクリームがついている。
 どう見てもせいs――いや、バカなネタはやめておこう。これは心温まる、母の日の話なのだ。
 脳裏に沸いたフレーズを頭を振って吹き飛ばすと、俺は素早くこのみちゃんの頬っぺたを指で拭って、
そのままクリームを舐めた。十分に泡立っていて、口の中ですっと溶けた。
こ『な……なにすんねん! このへんたいがぁ……(///』
 いや、だから顔真っ赤だって。そもそも、指でちょいと拭ったくらいで変態とか言われても。
 と、今度はあかねちゃんが背中を突付いてきた。
あ『こ……こっちも、ふけや……』
 いや、拭けって言われても、マジパンでしょ? 食紅でもついたのか?
 そう思って振り返った俺が目にしたのは、予想外のものだった。
あ『な、なんやねん……さっさ、ふけ……(///』
 頬っぺたに、パチンコ玉くらいのマジパンの破片がくっ付いている。だが、さっきも言ったようにマジパン
ってのは粘土みたいな質感をしてるもんだ。
 要するに、クリームみたいに撥ねてつくとかはあり得ない。ぜったいわざとだ。
 だが、ここでそれを言うのも大人気ない気もする。二人がクリームに、最初からあれだけ固執する理由が、
なんとなくわかって来たからだ。
 俺はひょいっと頬っぺたのマジパンを摘みあげると、口に含んだ。
あ『……ちかん(///』
 誰がだ。
 イチゴのように赤い顔をした双子を見比べて、俺は苦笑いをして見せた。
こ『なにニヤニヤしとんねん、きしょくわるいわ!(///』
あ『……はよ、はたらけ(///』
タ「はいはい」
 どうやら満足して頂けたらしい。
 こんなベタなシチュエーション、一体どこで見たんだか。何はともあれ、一安心、一安心。



双子『『おおぉ〜〜〜』』
 オーブンを開けると、甘く香ばしい匂いが漂ってきた。
 黄金色の表面は多少焼きムラがあるものの、十分に過ぎる出来栄えだ。
 表面の粗熱が取れたら、いざトッピングへ。
 横に二つに切り、イチゴとクリームを挟み込む。
 双子が、交互にクリームをその表面へ塗りつけていく。多少でこぼこだが、そのくらいが味があってい
いかもしれない。
 そこに、残ったイチゴを乗せて、マジパンの人形を飾る。
 仕上げに、砂糖のプレートへチョコペンでメッセージを書く。
こ『やっぱり、ここはおねえちゃんのウチがかくべきやろ!』
あ『このちゃん……クリームやったやん……』
こ『そ、それは、あーちゃんだって、いい思いしたやんか?』
あ『い、いい思いなんか、してへんわ……(///』
タ「あぁ、はいはい、ケンカすんなよ」
 俺はもう一枚のプレートを差し出した。こんなこともあろうかと、二枚買っておいたのだ。
タ「一枚ずつ書けばいいだろ? 双子なんだしさ」
あ『む……あんちゃんのくせに、なまいき……』
こ『す、すこしは、きがきくやん?』
 そんなわけで、二枚のプレートを乗っけて、やっとこさ完成!! 純白のホイップクリームにイチゴの
赤が映えているのを見ると、充実感が込み上げてくる。上に乗ったお母さんの人形も、なかなかにいい味
出してる。
タ「ふぅ……やっとできたか」
こ『あんちゃん、なんもしてへんやんか』
あ『くちだけは、いちにんまえ……』
 そんなことないと思うけどなぁ? 俺頑張ったと思うよ?
 面と向かって反論はしないけど。眠いし。
 そういえば、夕べは寝てないんだった。ケーキの達成感も手伝ってか、急に眠気が襲ってきた。
タ「ふあぁ〜……んじゃ、俺帰るわ。そろそろ、お母さんも帰ってくるでしょ?」
こ『あ、せ、せやな……こ、このちゃん……(///』
あ『ん……あんちゃん、ちょい……みみ、かせ(///』
 手招きされるまま腰をかがめると、急に両肩が重くなった。
 いきなり、二人が俺の方にしがみついて来たのだ。
タ「え、ちょ、なに……」
 尋ねる間もなく、両頬に暖かくてわずかに湿った何かが押し付けられる。
こ『……きょうの、おれいや。あんちゃんは、ウチらの奴隷やからな(///』
あ『かんちがい、すなや……『あめとムチ』の、あめってだけや……(///』
 あー……そう言えば、温泉旅行のときにそんなこと言ってたっけな。あれ以来口に出なかったから、
忘れてると思ってたんだが。
 なんだかな。
 『奴隷』とか不穏当なこと言われてる割りに、忘れられてると寂しい自分てやっぱりMなんだろうか?
タ「光栄に存じますよ、お姫様方」
 そう言いながら二人の頭を撫でると、左右対称の顔は全く同じように目を細めたのだった。



 その夜。
 部屋のドアが、遠慮がちにノックされた。
母『あのぉ……夜遅くにすみません』
 このみちゃんたちのお母さんだった。
母『ウチの子らが、ずいぶんご迷惑かけたようで……』
タ「え? あ、いえ。そんな……」
 全力で首を振るが、お母さんはこちらが恐縮するほど申し訳なさそうにしていた。
母『その、ケーキを作ってもろたとか……材料代もタダやないですし、失礼かも知れませんけど……』
 言いながら、財布を取り出そうとする相手を、慌てて止める。
タ「いえ、ホント、お気になさらないで下さい。僕もお世話になってますし、その……旅行も譲って頂い
 たお礼だと思って貰えれば!」
 双子と出かけた温泉旅行は、もともとこの人が福引で当てたものだった。それを、仕事が忙しいお母さ
んの代役として、引率を引き受けたにすぎない。
母『ですけど……』
タ「えっと……どうか、二人を怒らないであげて下さい。それで、いいですから」
母『はぁ……あ、そうだ。じゃぁ、一個、いいこと教えますわ』
タ「え?」
 首を傾げる俺に、お母さんはそっと耳打ちをする。
母『あの子ら、来月の父の日に印つけてるんですよ? 『父の日』の『父』を塗りつぶして、代わりに
 『兄』って』
タ「へ?」
母『一ヵ月後、楽しみにしといて下さい』
 そう言うと、お母さんは口に手を当てて上品に笑った。
 お母さんが帰ると、隣から微かに声がして、それがすぐに暖かい談笑になった。どうやら、ケーキは喜
んで貰えたようだ。
 でも、『兄の日』って……。
 
 とりあえず、俺はまだ顔も見ない二人のお父さんに謝っておくべきなんだろうか?




母『う〜ん……『月刊 となりのお兄ちゃん』……イケるかもしらんなぁ』
こ『おかん? 何の話や?』
母『いや、なんでもあらへんよ、このみ。ほら、ケーキ食べよか、おいしそうやなぁ』
あ『……ウチらがつくったんや、当然……』
母『せやなぁ、おいしいやろなぁ。おおきになぁ。あ、せや。隣のお兄ちゃんも呼んだ方が、ええかもなぁ』
双子『『あ、あかん!!』』
母『あら、なんで?』
こ『あ、あんちゃんには、らいげつ、ウチらだけでつくtt――』
あ『このちゃん!』
こ『わわわわ、なんでもない、なんでもないで!』
あ『とにかく……あんちゃんは呼ばんでええ……眠そうやったし』
母(……本格的にイケるかもなぁ、『月刊 とな兄』……)



                                                 終わり


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