『夏祭り編』

 祭り。
 古くより五穀豊穣を願ったり、その年の収穫に感謝するべく、執り行われる儀式だと言われている。
 つっても、21世紀にそんな小難しいことを考える人数なんて本当に一握りなわけで、大部分は文字
通りの『お祭り騒ぎ』を楽しんでるだけだ。
 当然、俺の隣に住む、この二人も。

あ『……はよせぇや……ぐず』
こ『うち、タコやきたべたいねん! いそげや!』

 子供らしい無邪気な冷酷さで俺に毒を吐く関西弁の双子。
 帰りの遅いお母さんの代わりに、夕食を振舞った縁で、こうして一緒にお祭りに来ている。
 神社の境内にずらりと並ぶ色とりどりの出店。その向こうには、大量の提灯が輝き、それぞれ祭りへ
協賛した商店街の店名が書かれている。石畳が敷かれた道は、人でごった返しており、カップルだの親
子連れだのが満載。
 通路の一番奥は、一際まばゆい光に包まれている。ちょっとした広場になっているその辺りは、盆踊
りの会場になってるはずだった。
 全く同じ朝顔の柄で、色違いの浴衣を身に着けた双子は、人ごみにまぎれてしまいそうになるのにも
関わらず、お目当ての店へと歩みを進めていた。見失ってしまうのも怖いが、慣れない下駄なぞ履いて
るもんだから、足元も危なっかしい。
タ「あぁ、こら! はぐれるだろうが!!」
 多少強引に、双子の手を捕まえる。
 右手には水色の浴衣ではしゃぐ姉のこのみちゃん。同じく左手には、ピンク色の浴衣を身に着けてい
る妹、あかねちゃんだ。
こ『な、なに、かってにつかんどんねや!(////』
あ『……ちかんや、ちかんが、おる……(////』
タ「あのねぇ……」
 口々に文句を言う二人に半ば呆れつつ、俺はため息をついた。
タ「こんなとこではぐれたら、困るでしょ? いい子だから、おとなしくしてなさい」
あ『む……こどもあつかい……』
こ『めーれーすんなやー! どれいのくせにー!!』
 奴隷言うな。保護者代理と言え。
 今日も今日とて、多忙極まる二人のお母さんに頼まれ、こうして縁日に二人を引率してる次第です。
母『せっかく用意した浴衣やさかい、お手数ですけど……』
と渡されたデジカメも、しっかり首からストラップで提げてますよ。まぁ、娘二人の普段と違う姿を記
録に残しておきたい、という気持ちも解るので、俺も快く協力しようと思う。
 二人の思い出の1ページを、この手で鮮やかに残してやるとしよう。
 とりあえず、今は両手を繋がれたこの状況で、どうやってミッションをコンプリートするか――
 それが問題だ。



★Mission@〜無邪気に屋台の食べ物を頬張る双子を撮影せよ〜

 ――なんてカッコつけて言ってはみたけど、まぁ、あれだよね。
 物を食うときってのは、普通にしつけされた日本人なら片手で器を持って、もう片手で箸を使うのが
常識でして。
 食欲旺盛な双子の前では、俺の手など屋台の焼きそば程度の価値もないわけだ。
こ『このカリカリのとこが、うまいねんな〜?』
 ソースの焦げた辺りを箸で持ち上げ口へ運ぶこのみちゃんを撮影し、難なくミッション・コンプリー
ト。いきなりレンズを向けられて驚いた顔も、ハプニングということでご愛嬌。
 当然のごとく、
こ『ふなっ! な、なにかってにとっとんねん!』
とか怒られたものの、
タ「あぁ、ほら、ソースがついてるよ」
とティッシュで頬っぺたを拭いてやるとおとなしくなった。
こ『にゃ……く、くるしゅう、ない(///』
 なにがやねん。
こ『も、もっとぉ……やさしく、せんかい……(////』

 ――いや、その台詞はおかしいぞ。
 よく解らない返しに苦笑していると、服の裾を引っ張られた。
 あかねちゃんが、綿菓子を片手にこっちを見上げていた。
あ『……うちは、とらへんのか……』
タ「撮って欲しいの?」
 ニヤニヤして言うと、向こう脛を蹴られた。下駄なもんだから、普段の五割増しくらい痛い。
タ「あでっ!」
あ『か、かんちがい……するな……おかんの、ためや』
こ『せやでー! おまつりにおかんがこれへんから、おとなしゅうモデルになってるんやんか!』
あ『まったく……きをつけんと……すぐに、ちょうしのる……」
 言いながら、あかねちゃんが綿菓子を口に運んだ瞬間。
 俺は不意打ちでシャッターを切った。 
 デジカメの液晶には下から見上げるアングルで、あかねちゃんが映っている。後ろの屋台の照明もいい
感じに『祭り』の雰囲気を盛り上げていた。
タ「へへ……」
あ『む…………せこいで……(///』
 僅かに頬を染めて、あかねちゃんは綿菓子をちぎり取ると、まだしゃがんでいる俺へ突き出した。
あ『おしおきや……ちっそく、してまえ……うりうり……』
 いや、綿飴じゃ永久に窒息できないと思う
 口元に綿あめをぐりぐりと押し付けられたので、ご好意に甘えて口を開け、食べてしまうことにした。
 唇がわずかに細い指先を舐めると、あかねちゃんはますます顔を赤くし、俺の頭をはたく。
あ『……せくはら(////』
 ――意味解ってんのか?
                     
☆Mission@ Complete!☆
 


★MissionA〜お祭りで遊びに興じる双子を撮影せよ〜
 
 さて。
 そういうわけでベタに金魚すくいになんて誘って見ましたよ。
こ『誘うからには、奢りやろうな!』
とか言われたが、ここは必要経費と思って涙を呑もう。
こ『よっしゃ〜、うごくなや〜、そのままやで〜……」
あ『……』
 なぜかヒソヒソ声で金魚に暗示をかける姉に対し、無言で獲物を探す妹。
 浴衣の袖をまくって、それぞれのスタイルで狙いを定めている。
こ『あぁ、あかん……うごくな、いうてるやんか……」
あ『…………』
 俺はさり気なくカメラを構えて、その様子を見ている。今はまだ動きが少ないので、撮っても余り
面白くない。シャッターを切るのは、二人が動き始めてからがよかろう。
 しかし、態度の違いはあれども、二人の眼差しは真剣そのものだ。その辺りは子供ならではといっ
たところだろうか。二人とも、妙に負けず嫌いみたいだし。屋台のおっちゃんも苦笑いするほどの真
剣さだった。
 と、二人の手が同時に、ピクリと動いた。
こ『そこやぁっ!』
あ『……っ!』
タ「あ」
 思わず声を漏らしながらも、ちゃっかりシャッターを切る。
 デジカメの中では二人が同じ金魚へ、同時に手を伸ばす姿を映っていた。水が盛大にはね、紙で出
来たポイはお互いにぶつかってあっさりと破れた。
 それを見て、双子は
双子『『はぁ……』』
と、同時にため息をつく。
こ『やっぱりなぁ……せやから、きんぎょすくいは、すかんねん』
あ『……ほんまやな』
タ「やっぱりって?」
 俺が尋ねると、二人は同じ顔で唇を尖らせたままで言う。
こ『こーいうの、なんでも、あーちゃんとかぶってまうねん』
あ『ここや……おもうと、いつも……ぶつかる』
 なんというシンクロニシティ……双子って、ここまで息が合うものだろうか。流石にここまで来ると、
この二人が特別だと思うんだが。
 屋台のおっちゃんは、双子の動きに驚いていたようで、
お「俺もこんなの初めてみたぜ! 嬢ちゃん、普通は一匹ずつだが、こいつはおまけだ!」
と金魚を二匹ずつビニールに入れて渡してくれた。
こ『おおきにな〜、おっちゃん!』
あ『……おおきに』
 ビニールの中で泳ぐデメキンを見て、二人は顔をほころばせる。
 それもカメラに収めると、俺は
タ「よかったね」
と頭を撫でた。だが、このみちゃんは膨れっ面で言う。
こ『う、うっさいねん! そ、それよか、この子らあんちゃんがめんどうみいや!』
タ「え? 俺が!?」
あ『さそったのは、あんちゃん……とうぜん……』
 あぁ、水槽とかって一式でどんくらいするんだろうな……射的にしとけばよかった。
                                  
☆MissionA Complete!☆
 ふたごって、ふしぎ!


★MissionB〜盆踊りを踊る双子を撮影せよ!〜

 出店を一しきり回った後、突き当りの広場へと向かう。
 広場の中央にはやぐらが組まれており、そこから提灯のぶら下がったロープが四方に渡されている。
 提灯に限らず、やけに『300』という文字が目に付く。どうやら、この祭りが今年でちょうど
300回目を迎えた記念らしい。小さな祭りだが、歴史はあるようだ。
 広場の外周には、休憩所や本部のテントが並んでいる。そのテントにも、『300回記念』などと
文字が書いてあった。
 そして、やぐらの周囲。
 大人も子供も入り混じって輪になり、スピーカーから流れる音頭に合わせて踊っている。
 我らが双子も、事前に町内会で練習していたらしく、その輪に入っていた。
タ「あ、いいね〜! このみちゃん! こっち向いて〜!」
タ「あかねちゃんも可愛い! いいね〜!!」
 金魚の入って袋やらを持たされた俺がシャッターを切るたび、二人はまんざらでもなさそうに、
こ『いちいち、うっさいねん! はずかしいわ(////』
あ『……やかまし……とるなら、しずかにせぇ……(////』
などと文句を言う。
 少しずつ回る輪を、半周ほどした辺りだろうか。
 横をついていった俺を見て、このみちゃんが言った。
こ『あんちゃんもおどれや!』
タ「え……俺? 俺はいいよ」
 やんわり逃げようとすると、あかねちゃんが輪から外れた。
あ『……うちらばかり、おどるのは……ふこーへい』
こ『せや! だいたい、おどってうちらをたのしませるのが、どれーとしてのやくめやろ!』
 このみちゃんも輪から外れて、俺に詰め寄る。
 奴隷うんぬんはさておいても、確かに一人だけ踊らないというのも微妙な気はする。だが、こ
の年で盆踊りというのも微妙な感じがするし、第一、踊りが解らない。
 それを言うと、双子は顔を見合わせ、ため息をついた。
双子『『しゃぁないなぁ』』
 このみちゃんが、腰に手を当て俺を見上げる。
こ『しゃぁないから、おしえたるわ!』
あ『ありがたく……おもえ……』
 言うなり、手に持ってた荷物を奪われた。
こ『まずは、こうや!』
 このみちゃんが、手の平を上に向けて、ポーズを決める。
 ぼんやりそれを見てると、あかねちゃんに下駄で足を思い切り踏まれた。
タ「ぐあっ!!」
あ『なに……ぼんやりしてる……まね、せぇや……』
タ「は、はひ……」
 痛みに耐えながら、どうにか見よう見まねでポーズを真似る。
こ『わきがあまいわ! ちゃんとみとるんか!?』
タ「こ、こうですか?」
あ『……あしのかくど……』
タ「待った! 踏むのはカンベン!!』
あ『じゃぁ……ける』
タ「い゛ぃっ!!」
 そんなこんなでスパルタな15分が経過。
 その間、大の男が双子にどつき回される姿は、かなり周囲の注目を集めた。
あ『む……こんなもんか……』
こ『まだまだやけどな〜、じかんもったいないしな』
と両師範のお許しも出たところで、三人で輪の中に混ざる。双子は俺の前に位置取り、時々後ろ
を見ては、たどたどしい俺の踊りをけなしていた。
こ『ほれ、もっと、けいかいにうごかんかい!』
あ『……どんくさ』
こ『そこはちゃうやろ! おくれてるで!』
あ『……てが、はんたいや……あほ』
こ『これは、あれやな、あーちゃん。このけったいなおどりを、しゃしんにとるべきやな!」
あ『せやね……のちのちまで……わらいもの』
タ「え?」
 何を言ってるのか俺が理解する前に、フラッシュがたかれた。
 眩しくて閉じた目を開けると、そこにはいつの間にかデジカメを持っているこのみちゃんの
姿があった。
こ『ふふん。うちらだけ、とられてるのはふこーへいやからな!』
タ「いや、俺なんか撮っても……」
 うろたえていると、後ろから咳払いが聞こえた。振り返ると、おばさんがこちらを迷惑そうな
顔で見ている。
あ『ほれ……うしろが、つかえてんで』
タ「くっ……」
 ニヤニヤとこちらを見る双子の視線を受けながら、やむなく踊りを続行する。
 俺が間違えるたびに、双子はシャッターを押して笑っていた。
こ『うわ、なんやねん、これ……おかしいなぁ、あーちゃん』
あ『ほんまやな…………さいのうない……あんちゃん』
 盆踊りの才能なんかあってたまるか!
 つか、よく考えりゃ、輪から出ればよかったんじゃ……。
                 
☆MissionB Copmlete!☆
 ……しかし、よけいなしゃしんもとられました! およめにいけない!



★Final Mission!〜花火を愛でる双子を撮影せよ!〜

 さて、今回課せられた使命も大詰めを迎えました。
 本日のクライマックス。花火大会です。
 こいつが中々難しい。何しろ、花火が最も綺麗に見える瞬間というのは一瞬だし、それでなく
ても人手が最も増えることが予想されるこの時間は、正直、はぐれないだけでも精一杯だ。
 両手をしっかり繋がれたこの状態で、写真撮影などする余裕はない。盆踊りも終わり、広場は
人々で完全に埋まっている。
 お祭りの人ごみではぐれて……なんてベタなイベント、起こしても実際のところめんどくさい
だけだし、はてさてどうしたものか……と考えているうちに

――ドォン!!

 始まった。
 一発目と同時に、人々のテンションが上がるのが見て取れる。
 人々の歓声や叫びが、一気に膨れて、夜空に輝く光を歓迎した。
 
――ピュルルルル……ドォン!!

 すぐに二発目が空気を揺るがし、降り注ぐような光で辺りを照らした。
 
 こうして、ちゃんと花火を見るのは何年ぶりのことだろうか。
 現れては消える光を見ながらそんなことを考えていると、右手を引っ張られた。
 見ればこのみちゃんが一言、
こ『……見えへん』
と言って、唇を尖らせていた。
 広場は人でぎゅうぎゅうで、子供の背では確かに見えづらいかもしれない。しかも、彼女の前
には。よりによって大柄な筋骨隆々とした男が、腕組みをして立っている。
 しかし、どうしたものか。
 場所を移動しようにも、この人ごみを掻き分け、子供づれで動くのは少々危ない気もする。か
といって、見れないままというのも可哀想だし……。
 考えていると、このみちゃんが俺の服の裾を軽く引っ張った。
タ「え?」
こ『むこうむいて、ひざまげぇや』
 言われるまま、このみちゃんに背を向けて中腰になる。花火の音でやりとりが聞こえてなかっ
たのか、あかねちゃんは怪訝そうな眼差しを向けた。
 状況を説明しようと口を開いた瞬間だった。
 いきなり、首に手が回されて、背中に思い切り体重がかかった。
 舌を噛みそうになって慌てる間もなく、すぐ耳元でこのみちゃんの声がした。
こ『ほれ、はよ、たたんかい! みえへんやろー!?』
タ「ちょ、おもっ……」
こ『おもいとかいうなや! シめるで!』
 バランスを崩しそうになりながらも、何とか立ち上がる。
 左手はあかねちゃんと繋いだままで、右手一本で支える。
こ『へ、へんなとこさわったら、つうほうするからな!(///』
 そう言いながら、このみちゃんは腕に力を込めて、しがみついた。よくは見えないが、浴衣
とかシワになるんじゃないか?
 そうこうしている内にも、花火は続いている。
 大輪が連続で夜空を彩り、地上のものまで色とりどりに染めた。
こ『おぉ〜、さすがに、よう見えるなぁ!』
タ「そりゃ、よかった……」
こ『むだにデカいのも、たまにはやくにたつやん!』
タ「ほっとけ」
 高い視点での花火にテンションも最高潮でまくし立てるこのみちゃんを受け流していると、今
度は左手を引っ張られた。
あ『……うちも、見えへん』
 あなた、さっきまで文句一つ言わなかったじゃないですか……。
 喉まで出掛かったが、そんなことを突っ込んでいたら、この二人とは付き合えません。
タ「で、どうするの?」
 こうなったら、なんでもやろうじゃないかと内心開き直って尋ねると、ぼそ、とその口が動いた。
あ『…………っこ』
タ「え? なに?」
 周囲の喧騒にまぎれて、聞き取りづらい。聞きなおすと、あかねちゃんは口を尖らせて、不満そ
うな顔をし、それから顔を真っ赤にして言った。
あ『…………だっこ、してやぁ……(///』
タ「……よし、解った」
 おのれ、この年で上目遣いとは! よかろう! あんちゃん頑張っちゃうぞー!
 背中にこのみちゃんを乗せたまま、少しだけ屈むと、左手を浴衣の脇の下へ差し入れる。
あ『あ……ど、どこ触るねん……(///』
 そんな文句を言いつつ、あかねちゃんは首へ手をかけた。合計四本の腕が、前後から首に絡みつ
いている。
 正直、本当に重い。いくら女の子と言っても30キロ程度の体重はあるだろうし、それが二人と
なれば、なんかもう軽い拷問なわけですよ。
 ぶっちゃけ、撮影なんて言ってられない。

――ドォン!!

 一際大きな音が、辺りに響いた。
 下腹の辺りが震えるような破裂音に、俺らは揃って空を見上げる。
 それまでで最も大きな花火が、夜空に咲いていた。
 さらに、立て続けにその花火の周りを飾るようにして、たくさんの花火が打ちあがる。
 全体の色調が、赤から緑へ、さらに、青へと変わっていき、さらにそれらの色が入り乱れる
ようになって、夜空を焦がした。
あ『うわぁ……』
こ『きれーやなぁ……なんやったけ? えぇっと……た、た……』
タ「たまや?」
こ『せや! たーまやー!!』
あ『たまやー……』
 双子の声がステレオで聞こえる。その声に込められた、無邪気な喜びが、素直に嬉しかった。
 花火に照らされて、控えめに微笑んだあかねちゃんの顔が赤や黄色に浮かび上がる。
 時折、身を乗り出したときに見えるこのみちゃんの横顔も、きらきらと輝くような元気を放って
いる。

――お母さんには悪いけど、この二人の表情は、俺だけのものってことにしておこう。


 やがて……
 それも終わり、火薬の煙が雲のように夜空にたなびくと、人々は出口へと移動し始めていた。
 長かったお祭りも、もう終わりだ。
 二人を地面に下ろすと、両手が痺れて肩が酷く重くなっていた。合計して最低でも60キロ
を持って立ちっぱなしだもんな。俺って意外と体力あるんじゃないだろうか。
あ『……あんちゃん』
タ「あ……なに?」
 肩を回して凝りをほぐしていると、あかねちゃんが呼んだ。
 それから、このみちゃんと目配せをすると、
あ『ほんとは……あたりまえや…ねんで?』
と言った。
 首を傾げる俺には構わず、このみちゃんが後を続ける。
こ『あんちゃんは、どれーやからな! いうこときくのは、とーぜんや! せ、せやけど……』
あ『……れ、れいぎは……だいじて……おかん、いつもいうてるから……』
こ『そ、その……ええと……そ、そういうことやから、いちおう、やで!』
 息の合った言い訳の後、二人は同じ動作で息を吸って、それから、手招きをした。
 誘われるまま、身体をかがめると、二人がいきなり俺の頭を首に腕を絡めた。
 
 両頬に、柔らかいものが当たる。
 
 顔を離してから、このみちゃんは舌を出して文句を言った。
こ『うえ、あんちゃん、あせかいてるやん。しょっぱいわ』
 それがなぜか無性に恥ずかしくて、俺は思わず言い返す。
タ「し、仕方ないだろ。暑いし、さっきまで二人を持ち上げてたんだから……」
あ『すぐ…ひとのせいにする……だめにんげん』
 つん、と済ました顔であかねちゃんが言った後、それから二人は同時に、赤い顔で言った。

双子『『……今日は……お、おおきに(//////』』


☆Final Mission Failed……☆
 ――でも、まぁ、いいか。










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 ――後日。

タ「えっと、そういうわけで、ちょっと最後のだけはご期待に応えられなかったんですが……」
母『いえいえ、かまいまへん。というより、むしろ十分ですわ〜。いつものことですけど、お
 世話かけました』
 お母さんは俺が返したデジカメを見て、かなりご満悦な笑みを見せた。
 祭りに行く前、デジカメにと共に渡されたメモには、こう書いてあった。
 
 @屋台の食べ物を頬張る二人
 A屋台で遊ぶ二人
 B盆踊りをする二人
 C花火と二人

 要は、これらの場面を撮って来てくれ、と頼まれたわけだ。少し変だとは思ったが、別にお祭
りに行けば、普通に写真に撮る場面だと思ったので、俺も深く考えずにOKしたのだ。
母『ええ顔してるなぁ……やっぱり、別府さんと一緒やと違いますねぇ』
 お母さんは頷きながら、デジカメの液晶を見ている。
タ「え? そ、そんなことないと思いますよ?」
母『いえいえ、やっぱり、違いますて。あぁ、よかったら、今度お礼もかねて、四人でご飯でも
 食べに行きませんか? ちょうど、いま手がけてる新しい雑誌のほうがひと段落つきそうなん
 ですわ』
タ「え、えぇ……構いませんけど……」
母『よかった〜、あの子らも喜びますわ。せやったら、また後ほどご連絡いたしますね』
タ「は、はぁ……」
 慌しく去っていくお母さんを、俺は呆然と見送った。相変わらずパワフルな人だ。
 
 買ったばかりの大きめの金魚鉢には、四匹の金魚がゆらゆらとエアーポンプの泡と戯れていた。


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母(よっしゃ、この写真、十分使えるわ! 我が子ながら写真映りえぇし、別府さんもツボ解っと
るし……まさか、ここまで狙い通りに撮ってくれるとは思わへんかったわ〜!)


こ『きんぎょ、げんきやろか……』
あ『……みにいけば……えぇやん……となりやし』
こ『べ、べつに、あんちゃんちにいくために、きんぎょをかわせたわけやないで!?』
あ『このちゃん……うち、なんも、いうてへんよ……?』
こ『あぅ……だ、大体、あーちゃんもやな――』
母『たっだいま〜〜♪』
こ『おかえり、おかん。……なにニヤニヤしとるん?』
あ『……なんや、うれしそう……』
母『なぁ、このみ、あかね。おかんの雑誌に、出てみる気ぃあらへん?』
双子『『え……?』』
母『今度な、『月刊 隣のお兄ちゃん』っていう雑誌で、『お兄ちゃんとお祭りへGO!』って特集
 があってな――』 

                                          
                                      終り



※全くの蛇足かつ今更ながら、名前の由来は

 お好み焼き>おこのみやき>このみ
 明石焼き>あかしやき>あかね

 って感じです。『お好み焼きは広島だ!』とか『明石は兵庫だ!』とかいう意見は聞こえない。


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