その3

かなみ『さて、タカシ君。約束の一ヶ月まであと一週間ね。』
俺「はい。」
かなみ『白刃取り…岩石砕き…百人組み手…この課題を乗り越えられるとは、正直思っていなかったわ。』
俺「……師匠のおかげです。」
かなみ『いいえ。全てタカシ君の努力の賜物です。だけど、このままでは荒巻には勝てないわ。絶対に。』
俺「…何故です!?…俺は十分強くなっているんじゃ……!」
かなみ『ええ。強くなっているわ。テレビでやってるような格闘技の大会にでても優勝できるでしょうね。』
俺「…じゃあ、何故…!」
かなみ『それを今から見せるわ。みことや、荒巻ができて…あなたにできない物……』
俺「……ごくり…」
かなみ『あの木を見ていてね。』
俺「はい…!」
かなみ『いくわよ……はぁぁぁぁぁぁ………!!(ごごごごごごごごご……)』
俺「な、なんだ……!?空気が、震えるような……」
かなみ『……せっええええええい!(ぶんっ!)』
しーん…
俺「……?……何にも…」
かなみ『よく見ておきなさい。』
ばきっ…ぐらぐらぐら……どしーん!(←木が倒れる。)
俺「なっ!?……い、今、何したんですか!?」
かなみ『坂本流古流武術練気法…「遠当」……』
俺「と、とおあて……!?」
かなみ『いわゆる「気」の力よ。』
俺「気ぃ!?そんな、まさか…ドラゴンボールじゃあるまいし……」
かなみ『信じられないでしょうけど、あるのよ、そういうのが。…みことも使えるのよ。』
俺「で、でも、気って、マンガのかめはめ波みたいなのでしょう!?」
かなみ『「遠当」は、初歩の初歩。まあ、あれだけ離れた木を倒せるのはそうそういないでしょうけど。』
俺「そんな……」

かなみ『みことは、「豪力」の使い手よ。…体に似合わず、物凄い力でしょう?』
俺「そういえば…」
かなみ『気の使い手を倒せる奴なんて、そうはいないわ。…荒巻も気を使えるものと思ったほうがいいわね。』
俺「…望むところです。あのみことさんを倒した男に勝とうってんだ。気だかなんだか知らないけど、使えるようになって見せます。」
かなみ『うん。その意気よ。正直今まで以上に厳しい修行になるわ。…覚悟してね。』
俺「……はい!!」
かなみ『よろしい。…では、タカシ君に覚えてもらう技を見せるわ。』
俺「え…遠当じゃないんですか?」
かなみ『馬鹿ねぇ。人を倒せるような遠当が使えるようになるまで何年かかると思ってるの?』
俺「あー…そうなんですか。」
かなみ『やるのは簡単だけど、威力を出すのが難しいの。…基本の技って、そういうものよ。』
俺「…はい。」
かなみ『いい?みことは「豪力」の使い手だった。でもその豪力でも荒巻は倒せなかった。…なぜかしら?』
俺「…さらに力が強かった?」
かなみ『いいえ。ただそれだけなら実戦経験の多いみことがあそこまで簡単にやられる事はないわね。』
俺「うーん……?」
かなみ『あなた、荒巻にこてんぱんにされたんでしょう?何か気づいた事はないの?』
俺「ええと……俺が殴りに行った時に…あいつはあっという間に姿が消えて……」
かなみ『…………』
俺「まさか……!!」
かなみ『そう。物凄く素早かったの、荒巻は。…豪力のとって、一番の天敵…「神速」…!それが荒巻の技よ。』
俺「そうだったのか…だからいきなり間合いを詰められて…一方的に……」
かなみ『神速で繰り出される拳は凄まじい破壊力を生むわ。…あなたやみことが耐えられなくて当然ね。』
俺「でも…じゃあ…俺はどうすればいいんですか?」
かなみ『そう、どうすればいいか。…今から神速を覚えようとしても無駄ね。…同じ土俵に立てばあなたのほうが不利よ。向こうのほうがキャリアは長いんですもの。』
俺「でも…どうしたら…!」
かなみ『馬鹿ね。それを今から教えるんじゃないの。…はいこれ。』
俺「…真剣!?…これでどうしろと…」
かなみ『遠慮は要らないわ。私を斬ってみなさい。』
俺「えええ!?ま、マジッスカ!?」

かなみ『マジよ。さ、早く。』
俺「でも…」
かなみ『いいから早く。時間が無いのよ。』
俺「……!…それじゃあ……!えええええいっ!!(びゅあっ!!)」
かなみ『………!!』
ガキィンッ!!
俺「………!!?」
かなみ『…ふぅ。これはさすがに疲れるわぁ……』
俺「い、今のは……なに?…鉄を殴ったような……」
かなみ『これが、「鋼気功」。…体を鉄のように硬くする技よ。』
俺「………マジッスカ。」
かなみ『ええ。これも初歩の技。…だけど、極めれば…』
俺「神速の拳にも耐えられる体に……!!」
かなみ『ご名答。攻撃に耐えて…鉄のように硬い拳を叩き込めば……勝てるわ。』
俺「すげぇ…!!」
かなみ『というか、これくらいしかあなたが荒巻に勝つ方法はないわね。…やる?』
俺「はい、もちろんです、師匠!!」
かなみ『よろしい。…それじゃあはじめるわよ。イメージが大切よ。イメージが…』
俺「イメージ……」
かなみ『こんな感じで呼吸を……そうよ、いいわね。』
俺「……………」
かなみ『その呼吸を忘れず…自分が岩になったイメージを………』
俺「……………」
かなみ『(さわさわ)うん、いい感じね。…それじゃあ、殴ってみるわよ。』
俺「………お願いします…」
かなみ『……ふんっ!(ばっきぃ)』
俺「ぐへほぁぁっ!?」
かなみ『あーだめだめ。これくらいで息を乱さないの。』
俺「んなこと言っても……」

かなみ『じゃあやめる?…正直荒巻を押さえつけるのも限界なのよね。いいの?みことがやられちゃっても。』
俺「……いやだ…!みことさんのはじめては俺が貰う……!!」
かなみ『じゃあ頑張んなさい。』
俺「はぁぁぁぁぁぁ……」
かなみ『えいっ!(ばきっ)』
俺「ぐっ…!……まだまだ!」
かなみ『いい感じよ。その調子!』



〜そうして〜
俺「あうぐぐぐぐぐ……体中が痛い……」
山田「青あざだらけだぞ、タカシ……大丈夫か?」
俺「まあ…な……」
山田「はいこれ。」
俺「あ…?なんだこりゃ。」
山田「……坂本先輩が、お前に渡してくれって。」
俺「…みことさんが…?」
山田「…空けてみろよ。」
俺「………!!………これは……」
山田「…弁当か。………よかったな、タカシ。」
俺「みことさん…俺…俺……!!」
山田「うんうん……気持ちは通じ合ってる。あとは荒巻を倒すだけ……」
俺「ああ……!俺、絶対荒巻を倒す…!!絶対に……!!」
???「誰が俺を倒すって?」
山田「……!?あ、荒巻……!!」
荒巻「…よう、小僧。……美味そうな弁当じゃねーか。」
俺「テメェ………!!」
荒巻「みことがなんかそわそわしてたからな。何事か聞いてやったら…こういう事か……」
俺「…テメェ、みことさんに何しやがった……?」

荒巻「アイツをどうしようが俺の勝手だろう?……それよりテメーだ。」
俺「く……」
荒巻「みことのまわりをうろちょろしてるようだが……殺されてーか?」
俺「……死ぬのはテメーだ。下衆野郎。」
荒巻「あぁ?……そうか、わかったぞ。テメーがタカシか。」
俺「そうだ。別府タカシ……お前の鼻っ柱を折る男だ。」
荒巻「そうかそうか!ふははははは!みことがいってたな。「タカシを傷つけないで」ってなぁ!!」
俺「てめぇ……」
荒巻「自分はどうなってもいい…なんて健気なこと言ってるからよ。おもいっきり可愛がってやったよ。ふはははははは!!」
俺「ああああらぁまきぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!(ごぉぉっ!)」
山田「馬鹿、タカシ、やめ……!!」
荒巻「ハエが止まるんだよ。(ひゅっ……ばきゃっ!)」
俺「ぐはあああっ!?」
荒巻「糞が…虫唾が走るんだよ!オメーも、みことも!(がすっげしっ!)」
俺「ぐああああああああああああああ!!ぎゃああああああああっ!!」
山田「タカシィィィィィィ!!」
荒巻「安心しろ。テメーを殺してから…みことをぼろぼろにして、後を追わせてやる。」
俺「て、てめぇ……!!」
荒巻「…じゃあな。死ね、別府タカシ。」
???「待ちなさい!!」
荒巻「あぁ…?」
俺「し…し…しょ…ぅ……」
かなみ『荒巻!…その辺にしときなさい!』
荒巻「なんだぁ?……センコーが何のようだ?」
かなみ『私をただの保険医だと思わないことね……(ごごごごごごご…)』
荒巻「……ほう、そうか。おめーは坂本道場の………」
かなみ『わかったら、タカシ君を離しなさい。…私とやりあうつもり?』
荒巻「…コイツよりゃ楽しめそうだぜ。…手合わせねがえますかね?センセイ?」
かなみ(コイツ……!!)
荒巻「こねえなら、こっちから行くぜ!師範様よぉ!!(びゅあああっ!)」

かなみ『む………!!(がきん!がきぃん!!)』
俺「師匠!!」
かなみ『見ときなさい…!』
俺「……」
荒巻「へぇ…鋼気功か……なかなかやるじゃん。女の癖によ。」
かなみ『……そうやって女を舐めてると、痛い目にあうわよ、ボウヤ?』
荒巻「…なめんなよ、糞がぁっ!!(びゅぁぁぁぁっ!)」
かなみ『…くっ!(がきぃん!がきん!!)』
荒巻「どうした!防戦一方か!?…鋼気功使いには、こういう手もあるんだぜぇっ!!(ずがああああっ!!)」
かなみ『……!?…きゃ……ああああっ!!(ずっぎゃぁぁぁん!)』
俺「ししょおおおおおおお!!」
山田「え?なに?なんで先生ふっとんでんの!?」
荒巻「いくら外側が硬くても…中から攻撃されりゃいてぇだろ?……ふははははは!坂本道場も落ちたな!お前ごときが師範だと!笑わせてくれる!!」
かなみ『う…う…うぅ…げほ…げほ……と、遠…当……!!不覚……!!』
俺「師匠!大丈夫ですか、師匠!!」
荒巻「ふんっ!糞が俺に歯向かうからこうなる。……さて、どうしてくれようか。…保険医レイプってのも、いいなあ!?ふははははは!!」
俺「畜生…畜生……!!」
荒巻「さあて、それじゃあお楽しみタイムと……」
かなみ『………破ぁぁぁぁぁああっ!!』
荒巻「(ずが…)うぐ……?(どっぎゃああああああっ!!)ぐあああああああっ!!」
かなみ『はぁ…はぁ……これが本物の遠当よ…!思い知ったかしら?』
荒巻「くっ……!!今日はこれくらいにしておいてやる!…覚えていろ!」
かなみ『はぁ…はぁ………(がく)』
俺「師匠!!」



俺「師匠!…しっかりしてください、師匠!!」
かなみ『不覚…だわ…まさか……あれほど…とは……!!』
俺「もういいです、師匠!喋らないで……!!」
かなみ『いいの…ふふ…ごめんなさい…散々えらそうな事言っといて…この体たらく……』
俺「そんな事ありません!師匠は勝ったじゃないですか!荒巻は…逃げていきましたよ!!」
かなみ『そう……げほっ……このままじゃ…あなたは勝てない…絶対に…!想像以上に強いわ、あの男は……!!』
俺「…………」
かなみ『ごめんなさい……完全に私のミスだわ………げほっ…げほっ……!!』
俺「いいんです……俺は……」
かなみ『……あぁ…ごめんなさい……私……は………また………………』
俺「師匠?やだな…寝たふりなんか……よしてくださいよ、師匠……」
かなみ『………………』
俺「師匠?師匠!?しぃぃぃぃしょぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


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