その3

唯「お兄さん、起きなよぉ!もう朝だよ!」
タカシ「う〜ん・・・今何時だよぉ・・・」
唯「朝の八時だよ。ほら早く!」
タカシ「八時・・・?九時まで寝る」
唯「もぅ!こんな可愛い子がわざわざ起こしにきてあげてるのにぃ!」
タカシ「うんうん。確かにお前は可愛いよ」
唯「えっ!?お、お兄さん何言ってるの?ボ、ボクが可愛いだなんて・・・(小声で)恥ずかしいよぉ」
タカシ「うんうん。・・・だから九時まで寝る」
唯「えぇっ!?」
タカシ「zzZ」
唯「・・・お兄さんのバカァ!!起きろぉ!!」
唯は乱暴に布団をひっぺがすと、オレの上に乗っかってきた。
タカシ「ぐえっ!」
唯「早く起きなさいっ!」
タカシ「わかったわかった!だから早くどいてくれ!」
唯「ふんだ!」
唯はそう言うとオレの上から離れ、ぱたぱたと下に降りていった。
タカシ「まったく・・・」
オレはしぶしぶ布団から出ていくと、眠いまぶたをこすりながら下に降りて行く。
結局昨日は二人で部屋の掃除を終わらせた。が、そのころには夜の11時を回っていたため唯をこの家に泊まらせることにしたのだった。
で、今日の朝はこのありさまってわけだ・・・まったく。
下に降りると唯が朝食の準備をしていた。
タカシ「ふあぁ・・・おはよう・・・」
唯「おはよう、お兄さん」
タカシ「お前、料理なんかできるのかぁ?」
唯「ボクの料理の腕をバカにするなよなっ!ちなみにお兄さんの分はないよ」
タカシ「な、なんだってー!?お前その食材は昨日オレが・・・!」
唯「うるさいなぁ。なかなか起きなかった罰だよっ!」
タカシ「なんだそりゃ・・・」
仕方なくオレは居間へと向かった。が、昔住んでいた家のため、当然テレビもなにもない。
タカシ「しょうがねえなぁ・・・」
オレはショルダーバッグから一冊の本を取り出すと、しばらくの間それを読むことにした。

そして本を読み始めてから30分後。
唯「きゃーっ!!」
突然、台所から唯の悲鳴が聞こえてきた。オレは無造作に本を置くとダッシュで台所に向かった。
タカシ「どうした!?」
唯「ゴ・・・ゴキブリ」
タカシ「へ?」
唯の指差すほうを見ると、タバコ一箱くらいの大きさのゴキブリがいた。
唯「お兄さん、退治してよぉ・・・」
タカシ「いや、このまま逃がしてやろうよ」
唯「イヤイヤイヤ!!ボク、ゴキブリは大の苦手なんだぞ!」
タカシ「いや、知らんよ」
唯「退治してよぉ!お兄さんのばかばかばか!!」
唯はポカポカとオレの背中を殴ってきた。
タカシ「いてて・・・あーもう、わかったよ!」
オレは近くにあったスリッパを手に持つとゴキブリの真上にかまえた。
タカシ「ゴキブリ、お前にうらみはないが・・・」
唯「もう!ごちゃごちゃ言ってないで早く退治しろよなっ!バカ!!」
タカシ「あー、うるせぇなぁ!今退治するよ!」
オレはスリッパを思いっきり振りかぶると、ゴキブリに叩きつけた。
ゴキブリは見事に砕け散った・・・すまん。
タカシ「ふぅ・・・」
唯「あ、ありがと」
タカシ「お前、ゴキブリごときでビビりすぎ。古い家なんだからでるのなんて当たり前だろ」
唯「うっ、うるさーい!!用がすんだなら出てけぇ!!」
タカシ「ひ、ひでぇ・・・」
オレはしぶしぶ居間へと戻った。が、しばらくして唯がオレのところへやってきた。
唯「お、お兄さん」
タカシ「ん?なに?またゴキブリちゃんでも出たの?」
唯「ち、違うよ!そ、そのご飯・・・」
タカシ「え?ご飯食わせてくれんの?」
唯「うん。さ、さっきの礼なんだからなっ!ただそれだけなんだからなっ!」
タカシ「やっほーい!じゃあごちそうになりまーす!」
オレは駆け足で台所に向かった。
唯「ち、調子に乗るなよなっ!」
二人揃って朝飯を食べ始める。
タカシ「うまいな・・・」
唯「当然だろ。ボクの手料理なんだからな」
タカシ「うん。今の調味料はほんとよくできてるよ」
唯「・・・お兄さん、怒るぞ」
タカシ「冗談だよ冗談。それよりさ、これ食べ終わったら隣町に出かけないか?」
唯「え・・・?」
タカシ「オレ、この街に来たの中学校以来だしさ!久しぶりに隣町まで行きたいって思って」
唯「やめておこうよ・・・」
タカシ「なんで?お前、地元の人間なんだから案内してくれよ」
唯「そ、そうだけど」
タカシ「じゃあ決まりな!食べ終わったらすぐに準備だぞ!」
唯「う、うん・・・」
オレは速攻で朝飯を食べ終えると10分もたたないうちに準備をすませた。
唯のほうも準備万端のようだ。
タカシ「よし、出発!」
唯「・・・」
オレたちは電車に乗り隣町へと向かった。
隣町に到着すると、まずオレは服屋へと向かった。
タカシ「懐かしいな、この服屋!まだ残ってたんだ!」
唯「入るの?」
タカシ「そりゃあそうだよ」
唯「そう。じゃあボクは外で待ってるね」
タカシ「え?お前も入ればいいじゃん」
唯「イヤだよ。男物の服屋なんて入りたくないもん」
タカシ「ふうーん。まぁ、いいや。おとなしく待ってろよ」
唯「お兄さんに言われなくたって、おとなしくしてるもん」
オレは服屋に入ると、まずは店のおっちゃんに話しかけた。
タカシ「久しぶり、おっちゃん!」
おっちゃん「・・・ん?誰だったかな?」
タカシ「なんだ、忘れちゃったのか。冷たいなぁ」
おっちゃん「んー・・・」
おっちゃんはオレのことを上から下までじぃーっと見ると、思い出したように手を叩いた。
おっちゃん「おぉ、タカシかぁ!久しぶりだな!元気にしてたか?」
タカシ「うん。おっちゃんのほうこそ元気そうだな」
おっちゃん「当たり前よ!なんか外から懐かしい声が聞こえたと思ったら、まさかタカシだったとはなぁ。一人で来たのか?」
タカシ「いや、友達と二人で。外で待たしてるんだ」
おっちゃん「なんだ、待たせることないだろう。友達も中にいれればいいじゃないか」
タカシ「いや、男物の服屋には入りたくないんだとさ」
おっちゃん「・・・と、言うことは女か?可愛いのか?」
タカシ「まぁ、可愛いし、かなりの美人だと思うよ」
とまぁ、おっちゃんとたわいのない会話を10分くらい続けるとオレは店の外へと出ていった。
タカシ「待たせたな」
唯「別にいいよ。次はどこにいくの?」
タカシ「うーん・・・実は何も考えてなかった。お前はどっか行きたいとことかないの?」
唯「ボクはないよ」
タカシ「じゃあ、映画でも観に行くか!」
唯「えっ?でもボクお金が・・・」
タカシ「いいって。付き合わせてるんだし奢ってやるよ」
唯「ほんと!?ありがとうお兄さん!うれしいなぁ!」
タカシ「(子供みたいにはしゃぐヤツだなぁ)」
とかなんとか思いながら、オレたちは映画館へと向かった。ちなみに観る映画は電話男とかいうのである。
受付「大人一枚ですか?」
タカシ「いえ、大人二枚で」
受付「かしこまりました。ではどうぞ」
タカシ「ほら」
唯「ありがとう・・・」
オレは隣にいた唯に入場チケットを渡すと映画館へ入場した。
映画はオタクな青年が描く壮大なラブロマンスで、気がついたころには終了していた。
タカシ「あー、おもしろかった!」
唯「・・・」
タカシ「あれ?もしかしてお前泣いてんのかぁ?」
唯「・・・!な、泣いてないよ!ボクが泣くわけないだろっ!」
タカシ「お前、ほんとすぐ泣くよなぁ」
唯「・・・え?」
・・・あれ?なんでオレこんなこと知ってんだ?
なんだこれ。前にもどこかでこんなことが・・・。
なんだろう。すごく懐かしいっていうか・・・。
唯「お兄さん、もしかして思い出してくれたの・・・?」
タカシ「え?なにが?」
唯「・・・」
タカシ「・・・?」
唯「・・・なんでもないよ。バカ」
唯はふくれっ面をすると、オレからぷいと視線をそらした。
タカシ「なんだよー。あ、それより腹減らないか?飯食べに行こうぜ!」
唯「え?ボ、ボクはいらないよ」
タカシ「なんだよそりゃ。まぁ、とりあえず近くのファミレスにでも入ろうよ」
唯「う、うん・・・」
オレは唯を連れてファミレスへと入っていった。
ウエイトレス「いっらっしゃいませ。お一人様ですか?」
タカシ「いや、二人です」
ウエイトレス「かしこまりました。奥のお席へどうぞー」
オレは奥のお席へ座るとメニューを開いた。が、唯はメニューを開かない。
タカシ「食べないのか?飯くらい奢るぞ?」
唯「う、うん。いらない」
タカシ「そうか。じゃあオレ頼んじゃうぞ」
オレはウエイトレスを呼び注文を済ませる。
それにしても、家を出たときから感じる周りの視線。
やっぱり唯は一般的に見ても、かなりの美人だということを再認識させられたな。
おまけに胸がでかい・・・とまぁ、変なことを考えるのはこれくらいにしておくか。

程なくしてオレの前に料理が置かれる。
タカシ「ほんとにいらないのか?オレ食べちゃうぞ」
唯「うん。いいから食べなよ」
タカシ「じゃあ・・・いただきます」
自分だけ食べるってのも、あまりいい気分がしないもんだ。
なんだか、隣町に来てから唯があまり喋らなくなっちゃったな・・・。
あまりこういう都会チックな雰囲気は好きじゃないんだろうか?

オレたちは料理を食べ終えると、ほかにすることもなくなったので隣町から地元へと帰った。


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