ツンデレが媚薬を使ったら その6

『ダメ!!』
 タカシの動きがビクッと止まる。その瞬間、私は勢い良く立ち上がると、タカシを背後
から、力一杯抱き締めた。
「わっ!! ちょ、ちょっとかなみっ!!」
 動揺した声を上げて、タカシが体を捻る。しかし、私は構わずにギューッと体を強く押
し付けた。
「離せって。まずは落ち着け。な?」
 タカシの言葉に、私は顔を背中に押し付けたままイヤイヤと首を振った。
『やだ。離さない』
 タカシの体がビクッと反応するのが感じられた。無言のタカシに、私は何か堰が切れた
ように、続け様に思いの丈をぶちまける。
『タカシのバカッ!! バカバカバカ!! 何カッコつけてんのよっ!! そんなの、ア
ンタに似あうわけないでしょっ!!』
「カッコつけってお前…… 俺はお前の事心配して……」
『それがカッコつけだって言ってんのよ。勝手に自分で決め付けて……そんな、形だけの
優しさなんて、あたし、欲しくないっ!!』
 タカシはグッと体を固くして、無言になった。一呼吸おいてから、私は更に言葉を続ける。
『タカシにとってあたしは何なのよ? クラスメート? 友達? 幼馴染? そんな普通
の関係だけ? ねえ? 教えてよ?』
 こんな一方的な聞き方はズルイと、自分でも思う。けれど、聞いてみたかった。知りた
かった。タカシがあたしをどう思っているか? あたしを見て、あたしとしゃべって、何
を考えているのかを。
 タカシはしばらく無言だったが、やがてフーッ、と深い吐息をついた。固くしていた体
が少し和らぐのを肌で感じる。そして、タカシはゆっくりと言った。
「……俺は……お前の事が、好きだよ」
 ドクン、と急に心臓の鼓動が高まり、一気にヒートアップした。全身が内側から物凄い
熱を帯びる。けど、まだ早い。私はすかさず追及する。
『どういう意味で? それだけじゃ分かんない』

「……ちゃんと、異性として好きだよ。友達とか、そんなんじゃなくてさ」
 その言葉に、どうしようもなく体が疼いた。呼吸を荒くしながら、私はタカシの体を締
め付けている右腕を上に動かし、左胸の位置で止める。ドクドクと言う心臓の動きが感じられた。
『【タカシも……緊張してる……動揺してるんだ……】』
 タカシの言葉は嬉しい。正直言えば、踊りだして、部屋の中を転がり回って、暴れまわ
りたいくらいに。だけど、同時に何で?とも思う。私の疑問は、すぐに口をついて出た。
『だったら何で? 好きなら何で……あたしを拒絶するの? 男の子って、その……した
いんじゃないの? なのに、何で変な優しさ見せて、カッコ付けようとするのよ』
「好きな子だからこそ……無理矢理奪いたくない。薬で体がおかしくなってるかなみを抱
いて……後で、二人とも悔やむような事をしたくないから」
 私は心のどこかで安堵を覚えた。タカシが自分に興味がない訳じゃないと知って。けれ
ど、同時に怒りも覚えた。
『何よ、それ!! あたしがおかしくなってるって……』
「そりゃそうだろ? 普段のかなみならあんな事しないだろ? 現に薬飲んでるんだし……」
『自分だけで勝手に決め付けないでよ!!』
 腹が立って腹が立ってしょうがなくって、私はタカシを怒鳴りつけた。
『あたしの気持ちなんて全然考えてないでしょ? 勝手に自分の思い込みだけで決め付け
てカッコ付けちゃって…… あたしの事、全然見てないじゃない。そんなの……優しさ
じゃない。思いやりなんかじゃないよ……』
「けどよ。お前さっき、俺に自分の事どう思ってるかって聞いたけど、俺だってお前が俺
の事をどう思っているかなんて、分からないんだぜ。なのにそんな事言われたってしょうがないじゃん」
『分からないの? あたしがこんなにアピールしてんのに、この鈍感っ!!』
「アピールって、何を? いつやったんだよ?」
『ずーっとしてたじゃない!! さっきからずっと!! いくらクスリでエッチになった
からって、好きでもない男の子にあんな事する訳ないでしょ!! ヤバイって思ったら、
とっくに追い返してるわよ!!』
 ハアハアと荒い息を吐きながら、あたしは怒鳴り散らした。いつの間にか目からボロボ
ロと涙が零れ落ちているが、それを拭う気にはなれなかった。
「かなみ……お前……」
 タカシが緊張で身を固くするのが感じられた。ここまで言わなきゃ理解出来ないなんて、ホント、鈍感だ。

 今なら、言える。というか、ここまで言っちゃったんだから、もう言うしかない。
 もう、心臓なんてとっくに破裂寸前まで行っているし、体だってこれ以上熱くなりよう
がないくらいに熱いんだから。
 カラカラに乾いた口で、私はついに……言った。
『あたしだって……タカシの事……大好きなんだから』
 口にした瞬間、心臓がギュッと締め付けられるような感覚に襲われた。それに耐えよう
と、私は更に強く、タカシを抱き締める。
『大好きだったから……ずっとずっと前から……けど、素直になれなくて……それで、素
直になりたくて、あんなクスリに頼っちゃって……タカシが好きじゃなきゃ、そんな事す
る訳ないじゃないのよ……』
 言い終えた途端、言い様のない感情に襲われて、私は我慢出来なくなって、タカシにす
がり付いて泣いた。悲しいのか、嬉しいのか、辛いのか、安心したのか、それすらも自分
じゃ分からなくて、とにかく泣いた。
 タカシは何も言わず、背を向けたままジッと立ち尽くしていた。私が泣き止むまでずっ
と、ただひたすら黙って、私を受け止めてくれていた。
 散々泣いて、ようやく嗚咽が止むのを待ってから、タカシは静かに一言言った。
「かなみ……その……そろそろ、離してくれないか?」
『…………え?』
「告白してからさ、その……お前の顔、ちゃんと見てないから……」
 何だか、タカシの体を離すのは非常に惜しい気がしてしょうがなかったが、私は仕方な
く腕の力を抜き、ゆっくりと下に下ろした。押し付けていた体を離すと、タカシがゆっくりとこっちを向く。
「おわっ!? お、お前、まだ服直してなかったのかよ?」
 振り向いた瞬間、タカシがビックリした顔で叫び、横を向く。私はえ?と思い下を向い
た。すると、まだブラウスを捲り上げたまま、二つの白い乳房が露出しているのに気付いた。
『あ……………………』
 私は右腕で胸を覆う。恥ずかしかったけど、どういう訳か、さっきほどは恥ずかしくな
い。というか、正直言えば、タカシに見て貰いたかった。見て……興奮して欲しかった。
「は、はやくしまえよな。でないと、まともにお前の顔……見れないから……」
 横を向いて恥ずかしそうにタカシが言う。けれど私は、胸を隠す代わりに、両手をタカ
シの頬に当てると、無理矢理前を向かせた。

『ダメ。ちゃんとこっちを見て』
「いっ!? いや、おま……待て待て待て!! い、いいのかよ……?」
 タカシの問いに、恥ずかしがりながらもコクンと頷く。
『いいの。私の顔も、私の胸も……タカシになら全部見て欲しいもの……』
 タカシの荒い鼻息が、私の手にまで掛かる。タカシの視線が、胸から、私の顔へと移ってくる。
「愛してるよ、かなみ」
 もう一度、こんどははっきりとした言葉で、タカシが私に言ってくれた。嬉しさではち
きれそうになりながら、私は頷き、そして言葉を返した。
『あたしも……タカシの事、大好き。愛してる』
 もう我慢出来なかった。私の衝動と欲望を止めるものはもう何もなかった。私は、タカ
シの当てた両手に力を込めると、爪先立ちになりながら、自分の唇を、タカシの唇に強く押し付けた。
『ん……んん……』
 夢中になって、私は舌をタカシの口の中に入れようとした。舌がタカシの唇に触れると、
分かったかのようにタカシの口が開き、受け入れてくれる。私はそのまま、自分の舌を
タカシの口の中へと差し入れた。すぐにタカシの舌が絡みつき、お互いに舐りあう。
『ハッ……はうっ……んっ……む……』
 この激しく、情熱的なキスをいつまでも続けていたかったが、私は自分から舌を戻し、
口を離した。交じり合った唾液がお互いの口の間で糸を引き、そして切れる。
『もうダメ……お願い、タカシ……もう、我慢出来ないの……』
 クスリの効果はまだ続いていた。というか、いっそう激しくなっていて、キスをしてし
まうと、もう自分では耐えることの出来ないほどの欲望の渦に巻き込まれていた。
「かなみ……その、本当に……」
 タカシがもう一度、確認しようとしてきたので、私は今度は軽くキスをして、言葉を封じる。
『聞かないで。お願いだから』
 私の顔をジッと見つめて。タカシが頷く。それから私達は、もう一回、激しくキスを交
わしたのだった。



〜PTAの検閲にともない、一部の文章が削除されました〜(編注・十八歳未満の閲覧を禁じます)



 事が済んだ後もしばし、私達はベッドの上でじゃれあっていた。しかし、名残惜しいけ
ど、けじめは付けないと。意を決して私は体を起こした。
「かなみ……どうした?」
 まだとろんとした目でタカシが聞いて来る。私は下着を着けながら、タカシを見て言った。
『シャワー浴びて来る。あたしが出たらタカシも使いなさいよ。それから……勉強の続き、
やらなきゃ』
「えー? マジかよ。今日はもういいじゃんか。何かもう、二人でゴロゴロしていたいけど……」
 私はキッとタカシを睨み付けた。
『甘えないでよね。アンタ、ここに何しに来たのか、もう一度よっく思い出してごらんなさいよ』
「そりゃそうだけどよ……」
 不服そうなタカシに、私は更に語気を荒くする。
『けじめの付けられない人はあたし、嫌いだもの。遊ぶ時は遊ぶ。勉強する時はする。そ
ういう人じゃないと、あたしと付き合う資格なんてないんだから。分かった?』
「分かったよ」
 と、タカシも頷いてくれた。けれど、その後でちょっと照れ臭そうに、こう付け加えて
きた。
「けどよ。シャワーだったら、一緒に浴びないか? その方が時間も節約出来るし――イテッ!!」
 私は、タカシに力一杯枕を投げつけた。
『ダメッ!! そんな事言って、どうせお風呂でエッチな事するんでしょ? その手には
乗らないわよ』
「はいはい。分かったよ」
 残念そうにタカシはため息をついて言った。もっとも、本心は私も同じだけど。けど、
やる事はきちんとやらないと、二人揃って留年なんてコトにはなりたくないし。だから今
は、我慢しないと。
『とにかく、やる事はキチンとやる。後の事はそれからよ。いい?』
 私の言葉に、タカシがきょとんとした目で見た。私は恥ずかしくなって後ろを向き、そ
れから、小さい声で付け加えた。

『その……勉強、終わったら、さ…… もう一度……しよ? だから……』
「かなみ……」
 小さく呟くと、いきなりタカシは後ろから私を抱きすくめた。
『きゃっ!? ちょ、ちょっと、何すんのよ?』
 びっくりして叫び、私は抵抗する。しかし、私の言葉に耳を貸さず、タカシは私の耳元
に口を寄せ、小さくこう囁いた。
「……大好きだよ、かなみ。愛してる……」
 その言葉に、胸がキュン、と跳ね上がった。私は体の力を抜き、うつむくとやはり、小
さな声でこう答えた。
『……私も、タカシの事……愛してるよ……』
 どうやら、クスリの効果は確かにあったようだった。
 明日、友香に会ったらちゃんとお礼しないと。熨斗を付けて、ね、と、私は心に誓うの
だった。
〜了〜


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