その2

…そんなこんなで今に至るわけだが。
三人称視点で逡巡してみたが、客観的に見ても恥ずかしい。
女みたいな体に生まれてきたことを呪うね、俺は。
「タカシ先輩♪」
「ん?」
じわりと熱くなってきた4月後半。
文化研究部部室では、11月の文化祭に向けて着々と準備が進められていた。
…進められていた?
「トランプしましょー?」
「タカシ君よく頑張るわねー…1時間で集中切れるでしょ、普通…」
「…」
「タカシ、大富豪するお!早く早く!」
「ボクなんかきてからずっと遊んでるんだよ、タカシも遊んじゃいな、ほらほら〜」
梓が目の前でくねくねと不思議な動きを繰り返しながら悪魔の言葉をささやいている。
模造紙から目をあげ、部屋を見渡すと、
うるうるとした目でトランプをねだってくる舞と、
ダルそうに机をベッド代わりにしている友子先輩と、
何やらトランプを凝視している山田と、
うねうねと動き続けている梓が目に入る。
「…」
よし、作業を続けよう。
「あー、何で無視なんですか!?」
「そーだそーだ!トランプしよーよー!」
「…このカードを出して…お…」
「ぐー…」
四者四様の返答が返ってくるが、華麗にスルー。
「…タカシ先輩」
ん、何やら人が近付いてきたみたいだが。
そう思いながらも、俺はきゅっきゅっと模造紙にマジックを走らせる。
ちゅっ…
「ちゅ?」
ほっぺたに柔らかいものが触れた気がするんだが?
「え?」
唇を抑えて真っ赤になっている舞がそこにいた。
「えええええええええええええええええええええええええええええ!?」
「タカシ先輩…あの…」
え、ちょ!なにこれ!?
理解する暇もないまま、ぼーっと立っていると、
「どっせーい!」
軽快な梓のとび蹴りが舞に命中。
加減はしているようだ。
何を言っていいかわからなかったが、今回は梓に助けられた…ありがとう、あずs…
「ダメでしょ舞ちゃん?あの人はね、とーっても怖い人で、変質者なんだよ?」
「誰が変質者だああああああああ!?」
ちょっと期待させといて2秒で失望させんなこら!
「え?だってほら、今のってタカシが無理矢理させたんじゃないの?」
「どこのアホの子だ、おまえは。どう見ても普通に作業してましたって!」
ああいやだいやだ、これだから女ってやつは。
ちょっと満員電車に乗っているだけで痴漢に間違われる、弁護の余地は一切ない。
なんだこりゃ。
「違うんです、これは私が勝手に…」
おお、俺に救いの手が!
「はいはい、どーせバカシが無理矢理やったんでしょ?ボクは全部知ってるんだから」
悪魔登場。
「なんだよ、何を根拠に!」
「タカシの顔を見てたら分かるよー、変態はすぐに顔にでるからねー」
「な、変態じゃねーよ!なんだよ、お前だって…」
お前だって…って今の発言は軽率すぎたか…
梓はアホの子だけど変態ではない。
「お ま え だ っ て 何かな?」
「くっ…そんなことばっかり言ってると、いつまでも彼氏もできないぜ!ざまみろ!」
悔し紛れのセリフをはいてみる。
「そんときはタカシがいるもん!いざというときにはもらってよね!」
「っ…」
ん、なんか舞がすごい苦い顔してるぞ?ま、冗談は軽く流すに限る。
「バーカ、その前に俺が彼女作ってどこへなりと行ってやるわ!そうだな、俺にいつまでも相手ができなかったらもらってやってもいいぜ?」
「タカシ…好きだ…/////////」
梓が演技モロバレで告白してきたので、俺もノリで返す。
「やめてください梓様…いや、そこはらめぇ!」

「「あはははははははははは!」」

部屋の隅では舞が相変わらず苦い表情。
ちょっと冗談が過ぎたか。
キーンコーンカーンコーン…
「ぐー………あれ、もうこんな時間?じゃ、文化研究部これにて解散ー」
「さーて帰るお…そうだ友子先輩。一緒に帰るお」
「え?なんで?」
「この間の原稿の件だけどお…」
そう言いながら二人は部屋を出ていく。
俺も帰るか。
「さーて、ボクッ娘…一緒に帰るか」
「言われなくても分かってます、隊長!」
そう言って部屋を出る。
「ぁの…」
舞が小さい声で切り出した時にはもう遅く、二人の姿はなかった。

「なあボクッ娘?」
俺は初夏の夕暮れの帰り道を歩きながら梓に話しかける。
「なんでありますか、隊長?」
梓がまだ馬鹿をやっているので、通常モードに切り替えよう。
「いや、ちょっとな…」
「なにー?」
「さっきの話なんだが」
んー?と顔を傾けてくる梓。
俺は話を続ける。
「いざというときにはもらってほしいって…あれ、本気で言ったのか?」
夕暮れなのでよくわからないが、ぱあっと梓の頬に朱が走ったように見える。
「…////////」
「え、マジで?軽い冗談のつもりで言ったんだが」
女心はよくわからないとはまさにこのこと。
件の舞のこともそうだが、ひょっとして俺のことカッコいいって思ってるやつも結構いるんじゃ…
「軽い冗談?何の話?」
「え、おい梓?」
「ボク、本気でタカシのこと好きなのに!?」
「梓!?」
ちょ、ちょっと待った!いきなりこんなシリアス展開!?
ちょっと唐突過ぎるぞ…って、梓が俺のことを…本気で?
「ボク…ボク…」
「…ごめん、梓…俺、そんなつもりじゃなくて…」
「ボク…タカシのこと騙せて…すっごい嬉しいよ」
「は?」
梓はうさぎのようにぴょんと跳ねると、にぱーっと笑顔を作った。
小悪魔の顔だ…
「まさかこんな演技で引っかかるとは、タカシもなかなかウブだねぇ」
「な…!?男の純情をもてあそびやがったな!?」
「引っかかるほうが悪いんだよー、だ!ボクごときに誘惑されてるようじゃ、彼女なんて当分できそうにないねー!」
ぐっ!し、失礼な!
「こら、待てー!」

その様子を陰からじっと見つめる影があった。
「次こそは…タカシ先輩を…」

さらにその様子を陰から見守る二つの影があった。
「友子先輩…」
「こりゃ大変なことになったわ…☆」
「な、なんで☆がついてるんだお!?」


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