第7話『理由―わけ―』

タ「はぁ・・・・・・・」
尊「どうした?何か悩み事か?」
タ「ああ、ちょっとね・・・」
尊「お前のような能天気なヤツでも悩みの1つもあるのだな」
タ「・・・それじゃまるで僕が何も考えていない人みたいじゃないか」
尊「何だ、違うのか?」さも当然のように言う尊。
タ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」その言葉にタカシはガクリと肩を落とした。
尊「ま、まあなんだ。お前が相談に乗って欲しいと言うなら、乗ってやらんでもないぞ」
尊「べ、別にお前が心配だと言うわけではなくてだな・・・」
尊「そう、教師が辛気臭い顔をしていてはクラスの雰囲気も悪くなるからな。そういうことだ。大会の時には世話になったしな」
タ「まあ、別に良いけど・・・実はさ」
尊「何だ?」
タ「最近、誰かに尾行られてる気がするんだよ」
尊「ほう?」
タ「いや、厳密に言うと尾行られてるというより四六時中誰かの視線を感じるんだよなぁ・・・」
タ「さすがに家に着くと感じなくはなるけど、なんだか気味が悪くてさ」
尊「成る程な・・・貴様にストーカーとは、物好きな輩も居るものだ」
タ「物好き・・・それより、ストーカー・・・なのかな?」
尊「それ以外の何があるというのだ?」
タ「いや・・・心当たりはないけどさ。いやらしさとか悪意とかは感じないんだよ・・・コレといって何かされているってワケじゃないし」
尊「そうなのか・・・」
タ「・・・ふぅ。話したら多少はスッキリしたよ。ありがとうな、御剣」
尊「べ、別に礼を言われるほどのことはしてない(/////)」
タ「まあ、これ以上何かあったら警察に話してもいいしな。気楽に構えることにするさ」
尊「それでこそお前だ・・・そんなお前だからこそ私は・・・」
後半の声は小さくなってタカシには良く聞こえなかった。
タ「・・・今なんていった?」
尊「・・・た、大したことではない(//////)」
タ「そうか?何か顔が赤いぞ?」
尊「うるさい!何でもないわ、この馬鹿者が・・・授業だから、もう行くぞ」
タ「・・・僕なんか罵られるような事したかな・・・それにしても、何なんだろうな、ホント」
タカシは疑問の言葉を紡ぐ。
当然ながらその言葉に返事が返ってくることもなく、虚空に溶け、消えていった。

授業が終わり、タカシが帰宅の途についていると・・・
視線を、感じる。
タ(・・・・・・まただ。いったい何だって言うんだ?)
タ(何かされるって事はないにしても・・・やっぱり、気味が悪いよなぁ・・・)
タ(いい加減、何とかしなきゃな・・・そうだ!)
タカシはおもむろに走り出した。
そして右折しビルとビルの隙間の路地裏に入り込み、物陰に隠れた。
そのままタカシが息を潜め、隠れていると、パタパタと足音が聞こえる。
おそらくは件の視線を放っていた者だろう。
人影がタカシの前を通り過ぎようとした、その時だった。
タカシが人影を羽交い絞めにし、口を押さえた!
その人影は思ったよりも小さかった。体に伝わってくるやわらかい感触。人影は、女性だった。
タ「・・・やっと捕まえた。大きな声を出さないと約束するなら、手を離す」
人影が頷く。それを確認してタカシは口を押さえていた手を離し、戒めを解く。
タ「さあ、ゆっくりと振り向くんだ。そして、話して貰おうか。なんで僕を尾行ていた?」
その言葉に、人影が振り向く。その顔を見て、タカシが驚く。
タ「・・・なんでキミがここに居るんだ!?」
人影の正体は、ちなみだった。
ち「・・・いきなり何するんですか・・・ヘンタイですか?・・・先生は」
タ「人を散々尾行しといてその上僕をヘンタイ呼ばわりですか・・・いい加減怒るぞ?」
ち「・・・カルシウム不足のせいですね。もっと落ち着いてください」
タ「ああムカつくなぁもう。キミが僕を怒らせてるんだろうが」
ち「・・・こんなとこではなんですから、場所を移動・・・しましょう」
タ「それは僕の台詞だと思うんだが・・・まあいいや、キミの台詞にいちいち突っ込んでたら身が持たない」
ち「・・・それが懸命ですね。先生にしては的確な判断です」
タ「やっぱり一発くらいぶっとくか?」
その言葉に当然のようにちなみは答えずスタスタと歩いていった。
タ「・・・とりあえず、何処に行くんだい?」
ち「この先に・・・24時間営業のファミレスがあります・・・そこで話しましょう・・・」
タ「・・・わかったよ」

ファミレスは思ったより近くにあり、すぐにたどり着いた。
注文に来たウェイトレスに2人分のドリンクバーと軽い料理を注文して、タカシは質問を始めた。
タ「・・・で?なんで僕を尾行してたんだ?」
ち「・・・気になったから・・・です」
タ「何が?」
ち「梓も・・・尊も・・・纏も・・・リナも・・・勝子も・・・気がついたら貴方に好意的な態度をとるようになっていました」
ち「別府先生・・・なぜ・・・貴方だけ・・・?・・・って、何を・・・震えてるんです?」
タ「・・・いや、キミが僕をちゃんと名字と敬称で呼んでくれたことに感動してたんだよ・・・」よく見ると軽く目が潤んでいる。
タ「ほかの子ときたら貴様だのお前だの良くて呼び捨てだの・・・」
ち「・・・そうですか、慕われてるんですね・・・」
タ「・・・それは慕われてるって言うのかな?舐められてるの間違いじゃないか?」
ち「・・・そうとも・・・いいますね」
タ「やっぱりね・・・」タカシは露骨に意気消沈した。
ち「で・・・質問に答えて・・・くれませんか?」
タ「わかった。さてと、さっきの質問だけど、なぜって、言われてもな・・・」
タ「僕は、教師として当然の事しかしてないぞ?」
ち「また・・・それですか・・・実は・・・梓たちには貴方が何をしたのか聞きました・・・」
ち「貴方が・・・彼女たちに協力したり・・・相談に乗った後、貴方は・・・決まって『教師だから・・・』『教師として・・・』」
ち「・・・貴方の言葉はひどく透明で・・・とても綺麗・・・『別府タカシ』自身さえ・・・感じられないくらい・・・」
ち「貴方は・・・なぜそこまで・・・『理想の教師』たろうとするんですか・・・?」
タ「それは・・・」
タ「約束・・・だからさ」
ち「約束?」
タ「僕は、ある人と、約束したのさ。『夢を叶えて立派な教師になる』ってな」
ち「・・・なるほど。その人は今何処で何を?」
タ「その人は・・・もうこの世には居ない」タカシが辛そうに目を伏せながら言う。
タ「病気でね。亡くなったんだよ・・・そろそろ、10年になるかな」
ち「そう・・・だったん・・・ですか・・・」
タ「結局、僕は約束を守ろうとすることによって、その人を忘れないようにしてるだけなのかもしれない」
タ「もう・・・2度と結ぶ事のできないその人との絆を守りたいだけなのかもしれない」
ち「私たちを・・・自分の目的のために利用してたと・・・悪い人ですね・・・先生は」
タ「ああ・・・そうだな。悪人だ。大悪党だな」
ち「でも・・・」
タ「でも・・・?」
ち「・・・先生は・・・皆に協力したのは、それだけ・・・じゃない」
ち「もし・・・それだけだったら・・・皆感づきます。貴方に心を開いたりなんか・・・しません」
タ「そうなのかな・・・僕は、ただがむしゃらにやってただけだから」
タ「まあ、彼女たちの力になりたいって思った気持ちだけは、僕の、別府タカシの掛け値なしの本音だ」
ち「それなら・・・いいです・・・」
ち「先生は・・・悪人です・・・でも・・・良い悪人です・・・」
タ「何だよそれ」タカシは苦笑する。
ち「だからこそ・・・わたしも・・・先生の事が・・・」
タ「事が?」
ち「・・・やっぱり、何でもないです(//////)]
タ「そうか・・・なら無理には聞かないことにする。君が『その人』について何も聞かないで居てくれたから」
ち「・・・あまり、他人には話したくない事だと・・・思ったから」
タ「否定は、しないよ」
ち「なら・・・話してくれるのを待ちます・・・」
タ「そっか。・・・てっきり、キミは僕のことを嫌ってると思っていたから。聞きたくも無かったのかとおもった」
ち「嫌って・・・ませんよ?」
タ「へ?」
ち「・・・他の人はどうかは知りませんが・・・私は・・・先生のことを嫌った覚えはない・・・ですよ?」
タ「僕が初めて赴任した日に『馬鹿みたい』って言われた気がするんだけど・・・」
ち「アレは・・・先生が間抜けだったからです・・・」
タ「そうか・・・ならなんで学校では話したりしてもそっけない態度なんだい?」
ち「だって・・・私まで先生と仲良くしたら・・・かなみちゃんが・・・ひとりぼっちに、なっちゃう・・・」
タ「・・・なるほどな。2人は仲が良さそうだもんな」
ち「でも・・・そろそろ・・・それも止めても良いのかもしれない・・・」
ち「先生は・・・信用できる人だって・・・確信できたから・・・・」
ち「かなみちゃんも・・・きっと先生なら・・・」
タ「・・・あの子に何があったんだい?」
ち「かなみちゃんは・・・むしろ先生側の人間でした・・・」
ち「でも・・・ある事が原因で・・・『教師』っていう人種に・・・強い嫌悪感を抱くようになりました・・・」
タ「ある事?」
ち「それは・・・本人から・・・聞いたほうが良いと思います・・・」
タ「・・・そうか。でも、彼女は僕の言う事なんか聞く耳もつ気ないと思うんだけど」
ち「・・・私も・・・説得・・・してみます・・・」
タ「それは助かるけど・・・どうして?」
ち「だって・・・」
ち「好きな人を・・・助けたいと思うのは・・・当然じゃ・・・ないですか・・・(//////)」ちなみはとても小さい声で呟いた。
タ「・・・今なんて?」
ち「・・・先生だけじゃ・・・情けなくて便りにならないからですよ・・・しかたないから・・・協力してあげます・・・っていったんですよ」
タ「ひどいな」タカシは苦笑した。
ち「それじゃ・・・先生・・・また明日・・・」
タ「ああ・・・また、明日な」
そして、ちなみはレストランから出て行った。
タ「・・・ちょっとまて、お題全部僕もち!?」タカシは叫んだが、時既に遅しだった。

次の日―
ち「かなみ・・・ちゃん」
か「ああ、ちなみ。何?」
ち「・・・別府先生の事なんだけど・・・」その言葉に、かなみはあからさまに不機嫌な顔になる。
か「・・・何よ、アイツが何だって言うの?気分悪くなるから出来るだけアイツの話題は止めてくれない?」
ち「・・・別府先生は・・・『あの先生』とは違うよ・・・?信頼・・・出来ると思う・・・」
か「・・・なによ、ちなみもアイツの肩を持つの?」
ち「・・・かなみちゃん・・・いい加減やめようよ・・・先生が皆・・・『あの先生』みたいなわけじゃないんだよ?」
か「そんな事ないわよ。先生なんて皆同じ。甘い言葉で信用させて、立場が危うくなるとすぐに逃げ出すのよ」
ち「・・・別府先生は・・・そんな人じゃ・・・」
か「うるさい!この裏切り者!あんたもアイツのトコに行っちゃえば良いでしょ!?」
か「私は信じない・・・私はあんなヤツ、認めないんだから!」
そう叫ぶと、かなみは鞄を掴んで、教室を出て行った。
それきり、かなみは教室へ戻ってこなかった。
かなみが家に戻ってないと、彼女の自宅から連絡が来たのは、その翌日のことだった。


前へ  / トップへ  / 次へ
inserted by FC2 system