・MONSTER HUNTER TD 第16話


狩猟は変った
一つの時代は終わり、俺たちの狩猟は終わった

ハンターの進出以来
辺境への狩猟規制が緩和され、ハンターズギルドの台頭が始まった
いまやシュレイドの狩猟はハンター派遣企業を含む治安維持組織
ハンターズギルドに依存している
もはやギルドはシュレイドにとって模範となりつつある

シュレイドは各地に技術を輸出しすぎた
ツケがまわってきたんだ

その全兵力の合計はシュレイド軍にも匹敵する勢いだ
我々の調査によれば
最王手のハンターズギルド五つが、地方ギルドを通じて
たった一つのハンターズギルドによって統率されていることがわかった

そのハンターズギルドが?

ドンドルマハンターズギルド

ハンターが唯一、生の充足を得られる世界・・・

狩猟は変った
競争や趣味のためでない 種族や他人のためでもない
金で雇われたハンターと造られた対モンスター兵器が
果てしない代理狩猟を繰り返す
命を消費する狩猟は、合理的な痛みの無いビジネスへと変貌した

狩猟は変った
ハンター登録されたハンターたちは
登録された武器を使い、登録された防具を使う
ハンターの制御
装備の制御
モンスターの制御
狩猟場の制御
全ては監視され、統制されている

狩猟は変った・・・

「そうは言うけどさ・・・」
タカシは少しばかりうんざりした様子で言った。
「実際そうなってるから俺らは生きていけるんだろう?爺さん」
「狩猟は変った・・・」
「・・・ハァ(駄目だこりゃ)」
この大衆酒場では愚痴を漏らす人間は数えると後を絶たない。
原因としてはいくらでも酒が飲める上にその独特の雰囲気から来るものだろう。
「大体悪いように言ってるけど実際良いことだろ?そうじゃなかったら無法地帯だ。
モンスターの乱獲が始まり、生態系が崩れる。
昔のシュレイド王国のようなことが始まるぞ」
「お前には解らないだろう」
スネークはタカシの言葉を軽く返すと、酒を再び口に含んだ。
「解らないだろうな。俺は軍人じゃないし」
「あくまで元軍人だ・・・」
「ホント、昔は軍で敏腕スパイ。ギルドにも何度か潜入したこともあり、
軍を辞めた後はギルドナイトにスカウト・・・少々ギルドに反感を持っててもおかしくは無いか」
その言葉を聞いたスネークは微笑した。
「軍はあくまで関係ない。時代は変ったと言ってるだけだ。
お前は昔を知らない。お前が生まれた時には双剣もガンランスも狩猟笛も太刀も弓もあった。
だが俺の時代にはそれが存在していなかった」
つまり彼が言いたいのは自分は苦労してきたと言いたいのだろうが、タカシはそれに反論しようと
しなかった。本当のことだし、彼はその時代の流れを受け止めている。
ただ、彼はその時代の流れがあまり気に食わないようではあるが。
「時代ね・・・ま、昔話は面白いけどさ」
「そういえば、今日ミナカルデのギルドからギルドナイトが一人ここに赴任してくるらしい」
それを聞いたタカシは眼を丸くして言った。
「本当か?どんな人だった?」
「ギルドナイトに相応しい人材と言っておこうか。ヴェルドの貴族の出身だそうだ。
あの人なら団長としてやっていけるだろう」
「団長!?スネーク、団長辞めるのか!?」
「俺ももう年だからな・・・」
「・・・英雄の時代も終りか」
「俺は英雄じゃない。これまでも、これからも・・・」
その断固たる言葉にはどこか淋しさが含まれているのをタカシは感じ取った。
タカシは『時代は変る』その言葉の意味を彼は深く感じ取った。
「あれ?今日ってことは・・・着任式は?」
「何を言ってる?もうとっくの当に終わってるぞ」
タカシは頭から血が引いていくのを感じ取った。
彼は急いで席を立つとギルドナイトのオフィスへ向けて足を急がした。

「ハァハァ・・・セーーーーー(バキッ)フォ!!!」
息を切らしながらオフィスの扉を開けたタカシを迎えたのはブーンの拳だった。
「アウトだバカ野郎。着任式は今日の一時だって報告しただろ」
「いやぁ・・・その時は実はかなり眠気が「黙れ」・・・ハイ」
ブーンは顔をニヤつかせてタカシへと歩み寄って肩に手を置いた。
「まあ安心しろ。再教育はアルビノエキスぶっ掛けるくらいで我慢しといてやる」
「ちょっと待て!くらいって無茶苦茶きつかったぞ!!」
「嘘つけ。お前掛けられてる時恍惚な顔してたぞ」
「マジかよ・・・orz」
「マジだ。ついでにお前はマゾみたいだがな」
それを言われたタカシは反論してやろうかと思ったが、それをトモコが抑える様にして言った。
「でもタカシ君も悪いわよ。ナイトなんだから規則は守らないとね」
「そういわれても忘れっぽくてさ・・・・」
「だったらナイトを辞めればいい話ではなくて?」
突如としてタカシの後ろから美しい声がかけられ、それに反応したタカシが振り返ると
そこにいたのはブーンとは違う新品の蒼いギルドガードスーツを着た女性だった。
「・・・ブーン、この人は?」
「ああ、紹介しよう。ナイトの新団長のリナ・ゴッドフィールドさんだ」
「ご紹介どうもありがとうございます」
リナと呼ばれた女性はブーンに微笑みかけると今度はタカシを睨みつけた。
「全く・・・話になりませんわね。時間をまともに守ることが出来ないなどナイトの恥さらしですわ」
「・・・はぁ・・・すいません」
「これなら貴方の後輩のトモコさんの方がよっぽどしっかりしていますわ。
今後規則を守れないようなら、すぐにでもナイトを辞めさせてあげますわよ?」
リナはそう言うと打ちひしがれるタカシを背に部屋を後にした。
「なあ・・・俺すんごい嫌われてるのな・・・・・・」
「遅刻した時点からして駄目だろ。諦めな、今後ずっとマークされるぞ」
ブーンはそう言ってタカシの肩をポンと叩いてから自らの机に着き、本を開いた。
「元気だして。十分挽回できるチャンスはあるって」
トモコはそう微笑みかけてタカシに言った。
「ありがとよ・・・ついでに顔をすり寄せるな」
「だって気持ちいいんだもん」
「ところで、あの人は一体幾つなんだ?随分若いようだけど」
「確か26って言ってたっけ」
「俺より二つ上か・・・歳が近い分扱いにくいな」
タカシはそういって今後のことを考え大きく溜息をついた。

「あー・・・」
「どうしたんだ?タカシ」
「スネーク・・・俺もう終わったよ。早速団長に目をつけられたよ。悪い意味で」
タカシがまた大衆酒場に戻った時には完璧に立場が逆転していた。
団長に目をつけられるということは今後の人生を大きく左右することになるので死活問題なのだ。
それが良い意味で目をつけられるならまだしも彼は悪い意味で目をつけられたのだから
運が悪いとしか言いようが無いだろう・・・
「一体何をしたんだ?」
「遅刻しただけだよ・・・それなのに今度規則を破ったらナイトを辞めさせられるんだぜ?」
「うむ・・・あの人はかなり規則に厳しいと聞いたからな。お前には少々厄介だろう」
スネークがそう言い終るとタカシは溜息をついて、テーブルに顔を伏せた。
「まあ、諦めるな。何とかして挽回すればいいだろう」
「それトモコにも言われたよ・・・大体あの人俺にあった瞬間罵倒だぜ?嫌われてるにも程があるって」
タカシはテーブルに突っ伏して気力の無い溜息をついた。
その時、カウンターの方からそれを吹き飛ばすような声が聞こえた。
「オイオイふざけるなよ!俺達は長い時間をかけてわざわざ火山まで行ったんだぞ!」
「ふええぇん・・・そんなこと言われても困りますよ〜〜」
男は声を荒ぶらせ、気の弱そうな女性に言葉を浴びせ続けている。
「ワタナベさん、どうしたの?」
その様子を見たタカシは立ち上がりその声のする方向へと進んでいった。
「ふえぇん・・・タカシ君助けてよぅ。この人がぁ」
「ハイハイってポルナレフ!ポルナレフじゃないか!!」
その男は丸太のようなドスタワーの髪形をした体格のいい男だった
「おお!タカシか!何だお前ギルドナイトの格好なんかしやがって!似合ってねえぞww」
「うるせー。そのドスタワー切り落とすぞ。それより、どうしたんだ?」
「ああ、聞いてくれよ。俺達グラビモスの討伐に言ったのにグラビモスが元から死んでたんだよ」
「元から死んでた?」
「しかもそこに見たことも無いようなでっかいモンスターが現れたんだ!真っ黒で全身棘だらけのな」
タカシは全くそのモンスターに見当がつかなかった。
今まで多くのモンスターと戦ってきたが全身真っ黒で棘だらけなど見たことが無い。
「他に特徴は?」
「知らねえよ!必死で逃げてきたんだからな・・・ああ、思い出しただけで嫌になるぜ」
タカシはそれを聞くと踵を返してギルドナイトのオフィスへと向かった。
「オイ!どこ行くんだよ!!タカシ!」
そう叫ぶポルナレフの声も聞こえないかのようにタカシは大衆酒場の入り口まで来ると二つの
人影がタカシの前方を塞いだ。
「あれ?タカシどこ行くの?これからショウグンギザミの討伐に行くんじゃ・・・」
「スマン、これから仕事だ。一ヶ月ほどしたら帰ってくる」
タカシはそう言って文句を言う纏とカナミを尻目に駆け出した。

「と、いうわけなんですが・・・」
タカシはギルドナイトのオフィスで不機嫌そうな顔をするリナに先程までのことを言い聞かせた。
「で、なんですの?」
「ハイ?」
「貴方は一体何をしたいのです?」
その声はピリピリしていて声が耳に入るたびにタカシは心臓が針で刺されるような感覚に陥った。
下手なことを言って怒らせでもしたらただではおかないと彼は直感的に理解していた。
最も、彼自身遅刻をしたことに少々負い目を感じているようではあるが・・・
「火山に行って何故グラビモスが死亡していたかを調査したいのです。あと、目撃された
モンスターのことも少々気になりますし・・・」
「つまり、貴方は私に調査の許可を出せと言いたいのですね?」
リナが顔を少し前に出すと、彼女のプリンセスロールがふわりと揺れた。
「そういうことになります」
タカシは毅然とした態度で言った。否、あくまで言ったつもりだろう。
なんとか口調は不安と動揺を隠そうと努力しているが明らかに語調が転んでしまっている。
「まぁ、やる気があるのならいいでしょう。許可しますわ」
それを聞くとタカシは心の中でガッツポーズをとった。しかし・・・
「けれど報告書に何も書かれていなかった場合にはどうなるかわかりますわね?」
リナがそういって微笑んだ時タカシは戦慄した。
タカシが人間相手に戦慄するということは殆ど無かった。だが、タカシの目の前に
いる人間はタカシにとてつもない恐怖を与えているのだ。
「だったら団長も一緒に言ったらどうですか?」
二人のすぐ近くで場所で声が上がった。ブーンだ。
「一緒に・・・ですの?」
「はい。団長は今日ここに来たばかりなんですから隊員と交流を図るのも良いでしょう。
ですから、タカシと一緒に調査に行くのはいい機会でしょう?」
ブーンがそういい終わるとタカシはブーンの肩を持ってリナに聞こえないような声で叫んだ。
「(オイ!どういうことだよ!ただでさえこの人機嫌が悪いってのに!!)」
「(うるさい。黙れ。掘るぞ)」
ブーンはそう言うとリナに向かって言った。
「コイツも一応反省しているんです。可愛い部下の頑張ってる姿を見るのもいいでしょう?
何なら、私も一緒に同行しましょう」
「ブーンさんがそう仰るのなら・・・わかりましたわ。私も一緒に行きましょう」
リナはそう言うと椅子から立ち上がってオフィスの出口へと足を向けた。
「それでは、早く行きますわよ」
リナがそう言って部屋から出るのを確認するとタカシはブーンを睨んだ。
「どういうことだよ・・・」
「人に嫌われたくなきゃ人を嫌うな。お前は明らかに団長を嫌っている。それじゃいつまでたっても
あの人にいい印象を与えることは出来んぞ」
不満そうな顔をするタカシを尻目にブーンはオフィスを出た。

溶岩が噴出す火山の一角で、タカシは苦虫を噛み潰したような顔でグラビモスの死体を眺めた。
「死体の腐敗の進行具合からしてコイツで間違いないだろう」
ブーンが冷静な口調で言うと、リナは問いただした。
「どういうことですの?一体誰が・・・」
「さぁね・・・私には見当もつきませんよ」
タカシはグラビモスの巨体を隅々まで調べていると、その首に眼を留めた。
「なぁ、ブーン、団長。これは一体・・・?」
タカシの視線の先にあったのは、太く、堅牢な甲殻に守られた首に付けられた規則正しい傷跡だった。
「これは・・・まるで噛み傷みたいですわ・・・」
「ちょっと待ってくださいよ。グラビモスの首に噛み付ける奴なんてこの世に存在しませんよ」
「いや・・・」
ブーンはタカシの言葉に否定の意を表した。
「存在する」
「ちょっと待てよ。いったいどんなモンスターがこれをしでかしたって・・・」
「聞いた話なんだがな、とてつもなくデカイ口と牙を持った化け物がいるらしい。
なんでも火山の付近に生息しているそうだ」
タカシはそれを聞いて、ポルナレフの言ったモンスターのことを思い出した。
もしそれがブーンの言うモンスターと同じものなら間違いなく危険である。
「団長!ここは一時撤退しましょう。今の状況では危険です!!」
「何を言っているのですか?まだ何も解ってはいません。このまま撤退することは許されませんわ」
リナはタカシの要望に毅然とした態度で答えた。
その返答に納得できないタカシは食い下がろうとした時だった。
『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』
突如として強烈な咆哮が3人の耳に鳴り響いた。
その鳴き声は今まで聴いたことがないほどの威圧感に満ち溢れていた。
「何だ・・・いまの・・・」
タカシがそう言うか早いか、地面が盛り上り、巨大な黒い岩が姿を現した。
否、岩ではなかった。
その黒い塊は全身を硬い甲殻と鋭い棘で覆い尽くされており、その巨大な口の下顎には
ドドブランゴの腕よりも太い大牙が二本生え揃っていた。
その姿は恐怖と破壊を形容するに相応しかった。
「アカムトルム・・・」
ブーンの口から発せられたその名前は、恐怖と破壊を形容する巨竜に向けられたものだと
タカシは混乱する頭で理解した。
「何ですの!?あれは・・・」
「アカムトルムらしいですよ。ブーンがそう言ってました」
「そうではありません!何故あんなものがここにいるのです!!?」
タカシはこっちが聞きたいと思ったが、それを口に出すことを辞めた。
今時分たちにできることは、逃げることだと悟ったからだ。
「一旦逃げましょう!今なら「来るぞ!!!」・・・!!」
タカシの言葉をブーンが遮ったと同時に、アカムトルムの口から強烈な旋風が解き放たれた。
「ええい!クソ!!」
タカシはこれと似たようなものを見たことがあった。
古龍のクシャルダオラとの戦いで、それが吐いたブレスだ。
だがこれはクシャルダオラのブレスよりも何倍も大きかった。
タカシとリナは寸でのところでそのブレスを回避したが、ブーンの近くにあったグラビモスの死体のせいで
回避をすることが出来なかった。
「・・・チッ!」
ブーンは小さく舌打ちを打つと、背負っていた大剣を取り出し、防御の姿勢をとった・・・が、無駄だった。
そのブレスでブーンは大剣ごと宙に投げ出され、地面に強く叩きつけられた。
「ブーン!!大丈夫か!!?」
タカシは地面に横たわったブーンの下へと駆け寄った。
「ああ、俺は大丈夫だ・・・それより、団長を」
タカシが振り向くと、アカムトルムと対峙したリナの姿が映った。
「早く行け!いくら団長でも長くは持たない!!」
「わかった」
そういうとタカシはリナへと向かって走り出した。
一方リナは槍を構え、アカムトルムの懐に入り込み攻撃を試みていた。
彼女の持ったニーズへッグの切っ先がアカムトルムの甲殻に覆われていない柔らかい腹を
突き刺すごとに鮮血がほとばしった。
「団長!大丈夫ですか!?」
「貴方に心配されるまでもありませんわ」
リナの微笑み混じり声は威勢が良く、それを聞いたタカシは自然と恐怖が薄れていった。
だがその時だった。アカムトルムはその場に立ち上がり、天まで届くかのような咆哮を上げた。
「うあっ!!」
「キャアアアアァァァ!!!」
タカシはその場に耳を押さえてその場に蹲り、リナはバウンドボイスの衝撃波でその場から吹き飛ばされてしまった。
蹲ったままタカシはリナに視線を戻したがある異変に気づいた。
彼女の足元が徐々に明るくなっていったのだ。
その異変を知らせようとするも、バウンドボイスの中ではいくら声を上げても無意味だ。
タカシはバウンドボイスが鳴り止むと同時にリナ目掛けて走り出した。
「団長!危ない!!!」
「え?・・・キャッ!!」
タカシがリナの身体を突き飛ばしたと同時に地面が赤く光り、紅い炎の柱が姿を現し、タカシの左腕へ
容赦なく食らいついた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
タカシは大声を上げて叫びそうになったが何とかこらえた。
「いきなり何を・・・ってタカシ!大丈夫ですの!!?」
その様子を見たリナはタカシへと駆け寄った。
「大丈夫・・・です・・・は、はやく・・・・撤退を」
タカシは出来る限り悲鳴を上げないように努めたが、その表情は苦痛に歪み、額からは
玉のような汗が滴り落ちた。
「あ・・ああ・・・・」
リナはタカシの姿を見て愕然とした。
炎の柱が直撃したタカシの腕は燃え上がり、布地は炭になり、腕を守っていた金属は真っ赤に
なって変形し、腕の皮膚は焼け爛れジュウジュウと音を立てている。
その光景は彼女に精神に大きな重圧をかけ、リナはその場に倒れこんだ。
「やっぱり扱いにくい団長さんだな・・・・しょうがねぇ」
タカシはそう毒づくと、リナの肩を負傷していないほうの腕で担ぎ上げ、アカムトルムを
背にして出せる限りの力で走り出した。
アカムトルムはその場で噛み付くようにして威嚇をしたが、それに応じることは今のタカシは
不可能だった。
「オイ!タカシ大丈・・・ってどうしたんだその腕は!?」
「今は説明してる時じゃない!それより、早く逃げるぞ!」
タカシの威圧をうけたブーンはこれ以上問いただすのをやめ、タカシに支えられているリナを
自分の肩へと担ぎなおした。
「それじゃ行くぞ。走れるか?」
「なんとかな・・・」
三人は恐怖を背にしてその場から立ち去り、その後アカムトルムの咆哮が火山の一角へと鳴り響いた。

揺れるボートの上で服を脱いで真っ赤に爛れた左腕を露にした。
「痛むか・・・って聞くのはよしたほうがいいな」
「だな・・・」
タカシは歯を食いしばって苦痛をこらえながら自分の左腕を見つめた。
「しっかし散々だったな・・・いきなり見たこともないモンスターが現れた上に団長はショックで
気絶・・・前代未聞だ」
ブーンはボートについたベッドで気絶したままのリナを見て言った。
「笑う気力すら無いよ」
タカシはそう言ってポーチからクーラードリンクと粉末にした薬草を取り出し、二つを混ぜ合わせ、
それを腕にかけた。
液体がかかるたびにタカシは表情を歪ませたが、尚も液体を腕にかけ続けた。
「それ、何の意味があるんだ?」
「火傷に効くんだよ。ま、俺が使ったことがあるのは軽い火傷の時だったけどな・・・」
「誰に教わった?」
ブーンが訊ねるとタカシは一呼吸置いて言った。
「クリス・ハンター」
それを聞くとブーンは納得した表情で「ああ」と言った。
「ちょっと寝てもいいか?疲れちまったよ・・・」
液体をかけ終わったタカシは壁に背をもたれさせて言った。
「ああ、ゆっくり休め」
ブーンがそう言うとタカシは安堵の笑みを浮かべて瞳を閉じた。
しばらく経ってタカシが眠ったのを確認するとブーンは小さくぼやいた。
「全く、たいした野郎だよ・・・」
そう言うとブーンはドンドルマに帰ってからどう報告書に書くかを考え始めた。


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