・MONSTER HUNTER TD 第7話


タカシ、カナミ、纏の3人はテロス密林へと向かう狩猟船にいた。
一般的な狩猟地帯として名高いテロス密林はドンドルマから一番離れた場所に位置しており、
普段なら移動だけで一ヶ月近くはかかる場所だ。
ただ、寒冷期から繁殖期に変る少しの間、強い西風が吹くためそれが追い風となり3人の乗った
帆船は2週間程度でテロス密林近くまで来ていた。
その海上の帆船の甲板には二人の女性が潮風に当たっていた。
「うえぇぇぇ・・・気持ち悪い・・・・」
最も、そのうちの一人、カナミは船酔いに相当参っているようではあるが・・・
「昨日の夜は揺れたからのう。無理もない」
一方その傍らで纏は潮風にその美しい黒髪をなびかせている。
「うぅぅ・・・纏さんは何でそんなに元気なのよぅ・・・」
「儂は船酔いにはめっぽ強い性質じゃからのう。あの程度なら酒が入っていても大丈夫じゃ」
カナミは正面を向いて海を眺めた。セルリアンブルーの水面が光を反射しキラキラと光っている。
「ただ、儂よりもあの男のほうが相当丈夫そうじゃがの・・・」
カナミはチラリと横を向くとそこには狩猟船の船長と話をしているタカシの姿があった。
「あの揺れでいびきを立てながら寝るのは幾ら儂でも無理じゃ・・・」
「アイツは馬鹿だからそういうのは大丈夫なの」
「ハハハwwそうかもしれんの」
二人は視線を海へと戻した。すると不意に後ろから聞きなれぬ声が聞こえてきた。
「あの〜すいません・・・」
後ろを振り向くとそこには見たところ二十歳近くの青年がそこにいた。
恐らくこの狩猟船で一緒に乗っていたハンターの一人だろう。着けている装備からすれば
まだまだ新米といったところだ。
「もしかして、貴女は纏さんですか?」
「ああ、そうじゃが・・・」
纏がそう言うとその青年はパッと明るい表情になった。
「やっぱりそうだったんですか!お会いできて感激です!!
僕は貴女に憧れてハンターになったんですよ!」
青年の青い瞳は爛々と輝いて纏を見つめていた。
「おお、そうか。そう言ってもらえると有難いのう」
纏がそう言うと青年は「それではまた」と言って仲間の元へ向かい喜びを分かち合っていた。
「纏さんって・・・すごい有名人だったのね・・・」
カナミは驚いた表情で纏の顔を見つめた。
「儂の名前もまだ消えてはいなかったということかの・・・」
纏は表情には出さなかったが内心嬉しくてたまらなかった。彼女にとって高名になる事が
ハンターとして生きていくための原動力といっても良かった。
そしてまた、前のようにハンターとして生きることが嬉しかった。
ただ、そのきっかけを作ってくれた人物にはなかなか素直になれないようではあるが・・・
「やっぱり『ギルドナイトになれた』って言われてんだから違うわよね〜」
それを聞くと纏は少々困った顔をして言った。
「儂をそこまで買い被らんでくれ。今まで生きてきてギルドナイトに入れると
思ったことなど一度もないわ・・・」
「へ?そんなにギルドナイトってすごいの?」
それを聞くと纏はあっけに取られた表情になった。
「お主そんなことも知らんのか?ナイトは狩人の中でも最高の腕前の人間しかなることは出来ん。
儂等とは住む世界が全く違うのじゃ」
「じゃあアイツは尚更のこと無理ね」
カナミはタカシに人差し指を向けて言い放った。
纏はそれを聞くとカナミに訊ねた。
「どういうことじゃ?」
「アイツったら昔は『ギルドナイトになる』って五月蝿かったんだから。朝も昼も夜もそればっかし。
その割にはスケベだし、馬鹿だし、鈍感だし、弱っちいし・・・」
「なんじゃそれは?!全くもって向いてないではないかwww」
纏は笑いながら言うと、カナミ微笑みながらそれに合わせたように返した。
「そうなのよ。ホントにサイテーな奴なんだから」
それを聞くと纏は一通り笑った後、俯いた。
「じゃがの・・・」
カナミが不思議そうに横を向くと纏は頬を紅く染めて言った。
「彼奴も・・・悪いところばかりでは・・・ないぞ?(///)」
その瞬間カナミの背筋にゾクリと冷たいものが走った。
小さい頃初めて氷結晶を持った時よりも遥かに鋭いこの感覚・・・
「な・・・何言って・・・」
「いや・・・実はのう・・・・駄目じゃ!儂には言えん!!(////)」
纏は真っ赤にした顔を両手で隠して頭を左右にブンブン振っている。
その仕草はまるで恋というものを初めて理解した少女のようだった。
そしてカナミは直感的に理解した。コイツは味方ではない。敵だと・・・
「だ、駄目よそんなこと!!許さない!!!」
「何故じゃ?お主には関係なかろう・・・・」
それを聞いたカナミは俯き顔を赤らめた。
「それは・・・その・・・(////)」
「さては・・・お主もか?」
先程反射的に叫んでしまったことを、カナミは後悔した。
これではまるで自分はタカシのことが好きだと告白しているようなものだったのだから。
「そんなわけないでしょ!!何で私があんな奴!!(////)」
「じゃあかまわんだろう?」
「うぅ・・・・(/////)」
カナミはまた俯いてしまったが、纏は一つ溜息をついていたって冷静に言った。
「言っておくが、お主と彼奴がどんな仲だろうと儂は引き下がるつもりはないぞ」
「じょ、上等よ!!言っておくけど、絶対に負けないわよ!!(/////)」
「どうだかの・・・話を聞いたばかりでは相当昔からの付き合いみたいじゃが未だに告白できていないのだろう?」
カナミはそれにうっと息を詰まらせるのを見て纏はほくそえんだ。
「ならこの勝負は儂の勝ちじゃ。儂のような素直な女ならタカシもイチコロじゃろうて」
「俺がどうかしたって?」
「〜〜ッッ!!?(///////)」
纏は後ろからのタカシの声に思わず飛び跳ねてしまい、そのお返しといわんばかりに彼女の右手がタカシの頬に
直撃し、辺りにパァン!と爽快な音を響かせた。
「女子の後ろに立つとは何事じゃ!この虚けが!!とっとと去ねッッ!!(/////)」
「もう着いたから準備しろって言いに来ただけなのに・・・(´・ω・`)」
そう言うとタカシはすごすごと狩猟船の脇に取り付けてあるボートへと向かっていった。
「・・・・素直ねぇ」
「クゥ〜〜〜〜〜何故じゃぁ!!!!(/////)」
カナミはニヤつきながら纏を見つめ、纏は悔しそうに狩猟船の淵をこれでもかと叩いた。

「え〜と・・・応急薬と携帯食料は一人1セットずつ。後1セットは緊急用に残しておこう」
3人は密林のベースキャンプで支給品の分配を行っていた。
タカシは2人に支給品を渡すと、イーオスキャップを頭に被り、ボウガンに弾を込めた。
キャップのせいでその幼さの残る顔は隠れてしまっているが、その優しくも真剣な目は
狩人の眼差しを秘めていた。
「・・・・(はぁ〜〜〜(////))」
カナミはそのタカシの顔を見ると自然と顔が緩んでいった。
彼は狩りの最中にふざけた行動をたまにとることがあるが、真剣に狩りをする勇姿はカナミにとっては
何事にも変えがたいものである。
ただ、不満なことといえばこの真剣な眼差しを独占できないということであるが・・・
纏の顔を見ると口元が緩んでいる。彼女の視線の先にいるのは紛れも無いタカシだ。
「纏さん。顔が緩んでますよ?」
カナミが挑発した口調で言うと、纏も挑発した口調で打って返す。
「フン、それはお主も同じことじゃろう?」
「・・・なんか二人とも仲良いな」
会話にタカシが割って入ると二人の視線がタカシに突き刺さった。
その視線はまるで『うるさい。空気を読め』と言っているようだった。
「(俺・・・なんか悪いことしたか?)」
その後三人は海辺沿いに進んで生き、岩のトンネルの前で足を止めた。
「俺の予想だとこの先に標的がいるはずだ。だけど・・・」
タカシは一呼吸置き、また話し出した。
「絶対に自分勝手な行動はするなよ?むやみに突っ込んだら自滅するだけだ」
二人は静かに頷いた。そのようなことは二人は重々承知してある。
しかし、このような状況で文句を言うなど空気の読めない愚か者のすることだ。
それほど彼の言葉には普段の彼からはとても想像できない程の威厳に満ちていた。
作戦はこうだ。タカシが囮になり相手に自分たちの存在を気づかせる。
そして後は攻撃を重ねるという至極単純なものだ。ただ、相手も相手だ。
単純な作業は決して簡単なわけではない。下手をすれば命を落とす。
三人は岩のトンネルを通ると、姿勢を低くして静かに歩みだした。
およそ10メートルほど先にはリオレイアが我が物顔で茂った木々の間を徘徊している。
その大地を踏みしめる太い脚は大地の女王と呼ぶに相応しいものだった。
「(ここで待っててくれ)」
タカシは小さな声で二人に言うとリオレイアに向かって静かに歩みだした。
本当なら手っ取り早く狙撃を開始したいところだがリオレイアの性質上それは無理だった。
相手が気づかないうちに攻撃をしてしまうと、他のエリアへ逃亡してしまうためだ。
このエリアは狙撃に使える高台があるし、それなりに広いので木で視界が鈍ることを除けば戦いやすい地形だ。
―――――わざわざ戦いにくい地形で戦う必要は無い。リオレイアの視界に出た後はすばやく高台に登ればいい。
そして後は二人の援護に徹するだけだ―――――
そうタカシが思った矢先リオレイアはキョロキョロと辺りを見回し始めた。
気づかれたのか?否、違う・・・
少しするとリオレイアはある一点を見つめた。
その視線の先にいたのは・・・・纏だった。
「(しまった!)」
タカシがそう思ったときにはもう遅かった。
リオレイアは大きく咆哮し、纏目掛けて一直線に突進した。
「避けろ!纏!!」
耳を突き刺されるほどの衝撃から立ち直った彼は怒号交じりの叫びを上げた・・・・


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