「タカシ……最近見ないわね。やっぱり嫌われちゃったのかな……。じい、何か知らない?」
「タカシ殿でしたらあの事件以来入院されていますが」
「え……。ちょっと! なんでもっと早く言わないのよ!」
がくがくがくがく
「姫様……苦しゅうございます……」
「ど、どうしよう……。今から行っても何か感じ悪いし、でも行かないまんまなのもやだし……」
「ちなみに本日退院だそうです。しばらくは療養になりますが……」
「ちょっと! なんでそんなこと黙ってたのよ!」
がくがくがくがくがくがくがくがく
「ひ……姫様なら既に……ご存知かと……ギブ、ギブでございます……」


「では、お大事に。まだまだ完治には程遠いんですから、くれぐれも無理はしないように」
「はい。どうもお世話になりました」
(かなみ……結局来なかったな……。それもそうか。ほっぺた叩いちゃったし、あんな偉そうな事も言っちまったし……)
「はぁ……。部屋に戻るか」

その頃、タカシの自室では……。

「ふふ……タカシ、帰って来たらどんな顔するかな。喜んでくれればいいけど」
「サプライズパーティーとは、お考えになりましたな」
「ふふっ。これで一発逆転よ! さぁ、早く帰ってらっしゃい!」

「あ。そうだ。先に陛下にご報告しなきゃ」

「ねぇ。そろそろ退院した頃よね」
「そのはずでございます。見て参りましょうか」
「いいわ。そんなことしたら、いかにもタカシの帰りを待ち望んでたみたいじゃない」
「まさしく、タカシ殿のお帰りをお待ち望みになってらしたではないのですか?」
「だって……知ってたらお見舞いにだって行ったのに……」
「お察しします」
「なんで人事なのよ」

「例の事件でのそなたの働き。実に見事でしたわ」
「ありがたきお言葉にございます。しかし、もとはと言えば私の不注意から生まれた事件。如何なる罰則もお受けする覚悟にございます」
「ふふ。安心なさい。そなたには本当に感謝しておりますのよ。罰でしたら姫の方にしっかり与えておきました」
「そんな……。一体姫は……」
「罰と言っても直接的な行為ではありませんわ。ちょっとした、情報操作ですの」
「情報操作……」
「ええ。あなたが入院しているという事実を彼女の耳には入れないようにしたのです」
「……は?」
「あの子には良い薬になったはずです。ずっと悩んでいましたもの。何故あなたが会いに来ないのか。嫌われてしまったのではないか……と」
「道理で……」
「あの子はもっと素直になるべきですわ。強がっているところも可愛いのですが、それで損をするのは好ましくありませんもの」
「陛下……それでは……」
「まぁ、あの子をいじめていると日々の煩わしさから脱却できるからこそなのですが」
「陛下……お楽しみでございますね」

「遅いわね……タカシ」

「そうだ。騎士団にも顔を出しておこう」

「ねぇ。じい」
「なんでございましょう」
「遅いわね」
「そうでございますね」
「あたしが……こんなに待ってるのに……何やってるのかしら……」
「姫様……」
「そりゃ、お見舞いに行かなかった私が悪いんだけどさ……。でも、仕方ないじゃない……知らなかったんだもの……」
「姫様……。タカシ殿は我々がここで待っていることをご存知ないのです。ですから……」
「まさか、途中で何かあったんじゃ……」
「姫様?」
「そうだわ……きっとそうよ!」
「ああ……姫様がまたご自分の世界に……」
「あたし、ちょっと見てくる!」
ガチャ
バターン!
「……え?」
「何か扉にぶつかったみたいですな」
「……って、タカシ! どうしたの! やっぱりまだ具合が……」
「か……ひ……姫……」
「喋らないで! 今、ベッドまで連れてくから!」

「どう見ても姫様が原因かと……」


「まさか中から姫が飛び出て来てノックアウトされるとは思いませんでしたよ」
「だから、悪かったって言ってるじゃない……。それにしても、母さまとじいがぐるになって私をからかっていたなんて……」
「からかうなど、滅相もございません。私めは姫様のお背中を少し押させていただいたまでです」
「そんなこと言っても駄目よ。ほらほら、『罰』としてこのご馳走は私達だけで食べるわ。じいは行きなさい」
「そんなご無体な……姫様〜」
バタン……ガチャ
「ふぅ……まったく」
「姫……あの……」
「ああ、あんたは気にしないで良いわ。全部じい達が悪いんだから。それより、怪我の方はもう良いの?」
「まだ完治には至っておりませんが、とりあえず血は止まりましたし、これ以上手当てはしようがないそうなので」
「……あの、さ。傷……見てもいいかな……」
「ええ、構いませんが……」

「あの……あまりご覧にならないで頂きたいのですが……」
「いいから。さっさと脱ぎなさい!」
「はい」

「凄く、がっしりしてるのね……」
「お恥ずかしいです」
「ううん、立派……。あ、その包帯……」
「はい。ただいま外します」
「……」
「……」
「痛く、ないの?」
「大丈夫ですよ」
「嘘。だって、まだ全然治ってないじゃない。本当は痛いんでしょ?」
「……実は」
「やっぱり……」
「ですが、すぐに良くなるそうなので……」
「ごめんね、あたしをかばったせいで……」
「姫……。もうお気になさらないでください。それに、私は姫をお守りするのが……」
「それだけ?」
「は……?」
「私を助けに来てくれた理由って、それだけ? タカシは、それが仕事だから、あたしをかばったの?」
「……」
「あたしは、あたしはあの時タカシがあたしを守るって言ってくれて嬉しかったよ。あれって、剣に対する返事じゃなかったの?」
「姫……」
「教えてよ! あたしばかりがあんたのことが好きなんじゃないかって、あんたはあたしのことなんか本当はどうでもいいんじゃないかって、思って……」
「……」
「ずっと、不安、だったんだから……」
「姫……」
「かなみ」
「え……」
「かなみって呼んで。あの時みたいに。せめて、あたしと二人きりのときだけでもいいから、名前で呼んで」
「それは……」
「……やっぱり、あたしなんて、どうでもいい?」
「いや、私も……俺も、ずっと、子供の頃から、……かなみが好きだった」
「タカシ……!」
「ごめん。かなみの気持ちはわかってたのに、俺が臆病で踏み出せなかったから……」
ぎゅっ
「か、かなみ……」
「もう、良いの。今はこうして分かり合えたから……」
「かなみ……」
ぎゅっ
「タカシ……。あたし、すごく、嬉しいよ……。ずっと、こうして抱きしめて欲しかった……」
「ごめん……」
「だから、謝らないでってば……」
「……ああ」

「姫様……良かったですな……」


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