十一

 「かあさまがね、もう、タカシとあそんじゃだめだって……いやだよぉ、そんなの……」
 「そんな……どうしてだめなの? ぼく、かなみちゃんにわるいことした?」
 「うんん……タカシはわるくないの。……わたしが……おひめさまだから……」
 「……ぁ」
 「しもじものものとあそんでいてはいけない……って」
 「そう……なんだ……。かなみちゃんもやっぱりそうおもうの?」
 「そんなわけないじゃない! わたし、タカシのこと……だいすきだもん……」
 「かなみちゃん……」

 「ねぇ、タカシ……。やくそくしない?」
 「やくそく?」
 「うん」

 「もしわたしたちがはなればなれになっても、ずっとともだちでいよう……って」


「……。懐かしい夢だな……。思えば、あの時に初めてかなみのことを好きだって気づいたんだな……」

「だが、夢からは覚めなければいけない」

――そして、現実に戻るとき……俺は何かを見つけているはずだ……。


「退屈ね……」
「姫……」
「たーいーくーつー! ああ、もうっ! 部屋にこもってるなんてあたしの性には合わないわ! やめやめ!」
「しかし、まだ半分も終わってませんが……」
「いいのよ! それより!」
「……何でしょう」
「城を抜け出すわ。ついてらっしゃい」
「……またですか。危険な事はしないでくださいよ」
「大丈夫よ。……ちょっとね、行きたい所があるの」
「行きたい所……ですか」
「そ。……あんたも、良く知ってる場所よ」


「ここは……」
「子供の頃、あんたと遊ぶ時は決まってここに来たわよね」
「はい……」
「変わってないね……。一面の、花畑……まるで、私達が離れ離れになってから、ずっと時間が止まってたみたい……」
「そうですね……」
「……タカシ〜?」
「は、はい。……何でしょう」
「今は、お城の外で、二人っきりなんだよ?」
「あ……。ごめん。変な癖になっちまってて」
「もぅ……。あたしは、普段からそうやって接してくれると嬉しいんだけどな」
「流石に、それは……」
「……。あーあ、たまには甘えさせて欲しいぞ、と。……せっかく両想いだってわかったんだから」
「……」
「……? タカシ、聞いてる……きゃ」
がばっ
「タ、タカシ? ちょっ、急に抱きつかないでよ。びっくりするじゃない……」
「かなみ……」
「わぁ! やめやめっ! 耳元で喋るの無し! くすぐったいってば」
「夢を見たんだ」
「……夢? どうしたの、急に」
「昔の夢だ。俺と、お前と、毎日遊びまわったあの頃の……」
「……うん。私もたまに見る。絶対に忘れられない思い出」
「なぁ。俺達さ、約束したよな。

『もし俺達が離れ離れになっても、ずっと友達でいよう』

……って」
「……やっぱり、覚えててくれたんだね……」
「忘れるものか……。忘れない。絶対に……」
「うん……」
「でもな、かなみ……。夢からは、覚めなければいけないんだ」
「……え?」

「友達、やめよう」


突然風が強くなって、辺りの花びらを散らした。

俺はかなみを抱いていた腕をはなして、背中から離れた。
日はいつの間にか傾いていて、花畑を赤く染めている。
白い花びらが、染まりながら風に舞う。その花吹雪の中で、かなみは表情を失っていた。

「どういう、ことなの……」

そして、今にも涙をこぼしそうだった。
周りの光景と混ざり合って立つかなみは、とても幻想的で、こんなときなのに、綺麗だって思った。
でも、俺は今からそれを壊す。

「かなみ……」

今まで持ち続けてきたものを失ってしまう恐怖感で震えた。
でも、前に進まなきゃいけないから。かなみは、覚悟を見せてくれたから。
俺は、とうとう言った。
目覚めの一言を。


「結婚しよう」


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