第3話
前回までのあらすじ:雪女→迷子→大泣

今回も完璧に説明完了。
買物を終えて店を出ると、もわわぁっという空気に包まれる。店内が涼しかっただけに
倍の暑さを感じる。ここは是が非でも、歩く冷房・纏様を抱っこさせてもらいたい。
「纏、やっぱりダメか?」
『う・・・だ、ダメじゃ!そ、そんな目で儂を見ても・・・だ、ダメなものはダメじゃ』
おや?なんかもう一押しで落とせそうじゃないか?せめて帰りだけでも全身クールダウンと
行きたいところだ。
「まつりぃ・・・だめぇ?」
『あ・・・その・・・う・・・』
これは行ける・・・か?俺の顔と地面を交互に見つつ、髪の毛の先っぽを指でくるくるしつつ
考え中。う〜ん、こういう仕草に弱いんだよね・・・。あ、俺はロリコンじゃねーからな?
『や、やはり・・・ひ、人前では・・・その・・・恥ずかしいから・・・だ、ダメじゃ』
顔を赤くしながら上目遣い・・・ですか。この雪女は俺を萌え殺す気らしいですよ。
全身クールダウン作戦は失敗に終わったが、纏の可愛い姿を見れたから良しとしよう。

帰りは右手を繋ぎながら歩く。会話は相変わらずないが、しきりにこっちを見られている
感じがする。ちらっ・・・ちらっ・・・って。
「なぁ?」
『な、なんじゃ?』
「その・・・ちゃんとこっち見てもいいぞ?」
『だ、誰がお主なぞ見てるものか』
「いや、ずっとチラチラ見てるじゃない?」
『お、お主ではなく、そっちの風景を見ておるのじゃ』
「そうだったのか、そりゃ勘違いして悪かったな」
『まったくじゃ。自惚れるのもいい加減にしてもらいたいものじゃな』
なるほど、そう逃げましたか。ちなみに、俺の左手はさっきからずっと壁が続いていてる。
壁の何を見ていたのか追求しても面白いが、気がつかない振りをしてやるのが大人ってやつだな。

再び会話が途切れたところで、ふっと悪戯心が沸く。
軽く手に力を入れて握ってみた。

にぎっ

ぴくっと体を振るわせる纏。顔はそっぽを向いたままだが、反対の手が着物のの袖口をぎゅっと
掴んでいた。そして、しばらくのあと・・・

にぎっ

おっ、握り返してきた。顔の表情は見て取れないが、きっと喜んでいるのかな?
んじゃ・・・こういうのは?

にぎっにぎっ   にぎっにぎっ

あはは、2回握ったら2回返ってきた。
その後は会話こそなかったものの、手をにぎにぎし続けて帰った。

ガチャ
「ただいま・・・むわぁはぁ〜〜〜!!!」
我が家のドアを開けるとすっかり涼しさは去り、ふたたびサウナのごとく熱くなっていた。
『この程度で・・・まったく軟弱じゃの』
のた打ち回る俺を尻目に纏はツカツカと部屋に入っていった。
「纏、部屋を涼しくしておくれよ」
『・・・』
無視されたが、きっとやってくれるのだろう。だよね・・・?
しばらく時間を空けて我が家に突入!!!!
「あっちぃ〜〜〜〜!!!!」
再び家の外でのた打ち回る。部屋の奥からこっちの様子をニヤニヤしながら見ている纏がいた。
「・・・」
熱せられた空気の層を掻き分けて纏の元へ。
「説明してもらえるかな?」
さっき買った棒アイスにかぶりつきながらぶっきら棒に
『妖力の無駄じゃ』
とか言われちゃいました。
こいつ・・・どうやら自分の役割を分かっていないようだな。ここは一つ、思い知らせてやる必要がある。
とりあえず、手始めに棒アイスを奪い取って口に入れた。
『あぁ・・・お、お主!それは儂のじゃ』
「うるふぇ!」
なんか悲しそうな顔してるが、心を鬼にしてちゃんと言ってやらねば。
「纏、お前をここにおいてやる条件はなんだ?」
『ない!』
「いや、クーラー代わりとさっき言ったばっかりじゃ・・・・」
『儂は世話をせい!と言った。おぬしはいいぞと言ったではないか?条件などないわ』
う〜〜ん・・・なんかそんな事を言ったような言わなかったような。
『と、とにかく!アイスを返すのじゃ!』
ふたたびアイスは纏の口に収まった。うぅ、僅かながらの涼すら奪われてしまったのだ。
くっそ〜・・・何か仕返ししないと。む・・・これだ!これしかない!
「纏」
『なんじゃ?アイスならやらんぞ?』
「いや、俺も食ったからさ。これって間接キスだよな?」
『かんせ・・・な、何を言っておるのじゃ!莫迦者!そ、そんな事で・・・儂がなんぞ思うと思うてか?』
メチャメチャ動揺しています。溶けたアイスの汁が手に垂れまくり。
あーあ・・・もったいねぇな。
「ったく・・・食べるの下手だな。手出せ」
『お、お主が妙な事を言い出すからじゃろ?ったく・・・綺麗に拭くのじゃぞ?』
ぺろっ
『ひゃっ・・・な、何を・・・?』
「ん?勿体無いから」
アイスの汁は纏の指先で再び凍り付いていた。ふふふ・・・まさか俺もアイスを食べているなどどと
思うまい。我ながらナイスアイデア。
『んん・・・も、もう良い・・・じゃから・・・やめんか』
ふと見ると顔が真っ赤になっていた。確かに、冷静に考えるとエロいなこれは。
相手が子供とは言え、教育上よろしくない、止めとくか。
『はぁ・・・はぁ・・・』
何故か息遣いが荒い纏さん。もしかして、メチャメチャ怒ってる??
これは何か言われる前に謝っておいたほうがいいよな?マジで怒らせたら殺されそうだし。
「あ、あのさ・・・ゴメン。あまりに熱くて、頭がどうかしてたっつーか・・・あは、あはは」
『・・・』
俯いたまま何も言わない。怖い、マジで怖すぎる。
そのまま判決の時の被告人のような心境で、次の言葉を待つ。
『・・・その・・・働かざるもの・・・食うべからず・・・という言葉があるじゃろ』
「はい?」
あまりに意外な事に我が耳を疑った。
『じゃから・・・住むからには、儂も何かしてやろうと言っておるのじゃ!』
「や・・・何かといわずに、涼をくれ。それだけでいいから」
纏がじっとこっちを見る。青い瞳の中に吸い込まれるような感じがした。
何だろう・・・この感じ。
動けないままでいると、懐に冷たい感触。纏がぴとっとくっ付いてきた。
『部屋全体を冷やすのは使う力が大きい。じゃから、こうして・・・その・・・』
言い切る前に俺は身をかがめて抱きしめた。胸元から軽く吐息がもれる。
全身涼しいはずなのに、何故か体の芯は熱い。
「纏・・・」
雪女の名前を呼ぶと、胸にチクリと何かが刺さる感じがした。
『こうさせてやると・・・さっき約束したからの。そ、それだけじゃからな?』
そんなのいつ約束したっけ?まぁいいや・・・涼しいし。
目を閉じると一層快適。あー・・・極楽ってこういう事を・・・言うの・・・か・・・な?

ふと気がつくと、夜もとっぷり暮れていた。
どうやら抱き合ったまま、二人とも寝てしまったらしい。纏も腕の中で静かに寝息を立てていた。
寝顔だけなら見ると、普通の人間と変わらないよな。可愛いな・・・まったく。
起こさないように慎重にベットに運んで寝かせる。離れるのはちと辛いが、ちゃんと歓迎して
やらないとな。なんたって、大事な大事な・・・冷房代わり・・・だもんな、うん。
意を決して台所へ。
はてさて、何を作れば喜んでもらえるかな?などと思いながら、とりあえず冷凍庫から
2本目のアイスを取り出してかじりつくのであった。だって・・・暑いものは暑いじゃんか?

この後料理を作りながら3本目に手が伸びたのは必然の事である。だって、暑いものは(ry

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