第14話(最終話)

前回までのあらすじ:雪女→懐妊→運動

ありのままを書くとこんな感じだったんだぜ?
俺は部屋をぐるぐる歩き続ける。あーーー落ち着かない、落ち着かないぞーーー!!!
あれから数ヶ月、ついに纏は予定日を迎えた。本来なら、病院でそわそわするのが父親なのだろうが
こんな時でも雪女の里へは入れてくれないので、自宅待機。
『大丈夫ですよ、里の占い師も安産になるだろうと言ってましたから』
アイスを頬張りながら言うのは、里の長。
「って、なんで長がここに居るんですか?立ち会ったりとかしなくても・・・?」
『ん〜・・・あ、そうだ。貴方が勢い余って里に入らないか見張ってる事にしましょう』
しましょうって・・・この人、本当に偉い人なのか?
そんな疑問をよそに、冷凍庫から3袋目のアイスをもってくるともしゃもしゃと食べ始めた。
『あ〜ん、これもおいひぃ。こんなの食べてる人間ってずるい』
あー・・・要はアイス食べに来たって事か。そうこうしてる間に、3袋目も空っぽ。
幸せそうな顔で再び冷凍庫を開けていた。
「あんまり食べると、お腹壊しますよ?」
『冷たいのは平気なんですよ〜だ。残念でした〜』
カップアイスの蓋を舐めつつ、立ったまま食べ始めた。もう、席にもどるのもメンドクサイ
といった感じ。
『やっぱりね〜、里に居るとしっかりしてないといけないじゃない?それに、人間の食べ物を
 そうそう何個も食べる訳にもいかなくて・・・威厳とか色々あるから・・・ねぇ?』
「はぁ・・・」
『あ〜〜〜!!』
「ど、どうしました?」
もの凄く悲しそうな顔をする里の長。指差す先には、空っぽになった冷凍庫が。
『タカシくぅ〜ん・・・』
「・・・買いに行ってきますね」
『やった、ありがと♪』
やっぱり、この人って偉い人なのか?クラスの学級委員みたいに、押し付けられてやってる
ような感じに思えて仕方ないのだが・・・。

家を出て、ふと思う。そういえば、さっきまでと違って落ち着いた気分だ。
まさか、長はそこまで計算して、あえてあんな振る舞いを・・・?
振り返ると、まるで子供みたいに無邪気に手を振っていた。
「そんな訳・・・ないか」

アイスを買って家にもどると、長が電話をしていた。
『そうですか、分かりました。はい、では伝えておきます』
さっきまでの緩々口調ではなく、完全に里の長の口調。しかし、目だけは買って来た袋をじっと
見ている。お前、やっぱり単なる食いしん坊だろ。
電話を切ると、ニンマリとしながら手を出した。
『おかえりなさい。えへへ・・・』
適当に一つ渡して、残りを冷凍庫へ突っ込む。
「そういえば、今の電話は?」
『うん、纏の事だよ』
「え?・・・で、何て?」
急に真剣な顔になる。しかし、アイスを咥えたままなので、非常にバカっぽく見える訳で。
『落ち着いて・・・聞いてください』
口調までシリアスモード。まさか・・・
「だ、ダメだったんですか?纏は?子供は?」
『・・・ぷっ、あははは、ダメ、あはっは・・・』
「えっと・・・?」
『ちょっと驚かせてあげようかと思ったけど、あはは・・・タカシ君の真剣な顔みてたら可笑しくて』
ムカついたのでおでこにデコピンしてやった。
『いったぁい!ちょっと!私に暴力振るうなんて何考えてるの?怒っちゃうぞ?』
「で、纏はどうなんですか?」
凄みを効かせてもう1回聞く。長も負けじとほっぺを膨らませながら、怒っちゃうぞの顔。
しばらく睨みあってると、泣きそうな顔になって
『ふぇぇ・・・ゴメンね?怒っちゃやだよ?軽い冗談言おうと思っただけなの・・・ね?』
この人、里では相当ストレス溜まってるんだな・・・と、ちょっと可愛そうに思えてきた。
「ちゃんと言ったら怒りませんから」
『んとね・・・母子共に健康だって。良かったね?』
「そうですか、ありがとうございます」
近くに居てあげられないのが非常に悔やまれるけど、まずは一安心といったところ。
そんな俺をよそに、里の長は冷凍庫からアイスを全部出してきた。
『もう帰るね』
「え?あ・・・はい」
『あ、あのね、アイス・・・一杯食べたのは、みんなに内緒だよ?』
「それは良いですけど・・・その手に持ってるのは?」
『これはみんなへのお土産。一応、立場ってのがあるから・・・めんどくさいなぁ』
「大変ですね・・・」
『でも、これからタカシ君も大変になるよ』
「え?」
『んふふ・・・』
意味深な微笑みを浮かべて、里の長は足早に帰っていった。

それからは何の連絡がなかった。基本的に、こちらからは連絡できないので、なんていうか
焦らしプレイというか・・・放置プレイというのか・・・もどかしい日々が続いた。
それが1週間ばかり続いたある日、不意にチャイムが鳴った。
玄関を開けると、纏が赤ちゃんを抱きながら立っていた。
『げ、元気じゃったか?』
「いや、そりゃ俺のセリフだ」
二人とも気恥ずかしいのか、なんとも間抜けな会話。後ろをふと見ると、タンスやら何やら
家財道具が一式積まれている。ついでに、それを運んできたと思われる雪女も数人。
「・・・あれは?」
『話は後じゃ、とにかくお主も手伝うのじゃ』
「え?」
『いいから、早くせんか。本当に鈍いの』
そう言うと、纏は一人中へ入っていった。

「つまり、こっちで暮らしても良いって事?」
引越しが終わって、ようやく落ち着いて話す時間ができた。
『儂はお主と暮らすなんて嫌じゃったが、里の長がの・・・いい機会じゃからとな是非にと』
去り際に長が見せた、意味深な微笑みはこういう意味だったのか。
「粋な計らいだな」
『迷惑な事この上なしじゃ。まったく・・・』
そう言いつつも、嬉しそうな顔をして子供をあやす。
「なぁ、俺にも抱っこさせてよ」
『ダメじゃ』
「何でだよ?」
『何でもじゃ』
「ちぇ・・・信用ねーの」
しばらくして、ポツリと言う。
『子供にばかり構われると困るからの』
「・・・つまり、子供にヤキモチ焼いてるのか?」
纏は図星を突かれたのか、真っ赤な顔で反論する。
『そ、そんな訳あるわけないじゃろ!いい加減な事を言うでない!』
俺は子供を抱いている纏の後ろから優しく抱きしめる。嫌がるように体を振るわせたが
構わず耳元でささやく。
「ちゃんと纏にも構ってあげるから・・・ね?」
『わ、儂はお主に構って欲しいなどと思わんの』
「じゃぁ、いいの?」
『だ、ダメに決まっておる。お主は儂の物じゃから、構うのが当然なのじゃ』
「子供へは・・・愛情を注がなくていいの?」
『そ、それも・・・ダメじゃ』
やっと観念したのか、俺に抱っこするように仕向ける。自分の子供・・・ドキドキしながら
抱きしめる。すごく柔らかくて・・・このままだと壊れてしまいそうな儚さすら感じる。
「纏・・・よく頑張ったね。ありがとう」
『ふん・・・言うのが遅いのじゃ』
「ゴメン」
『そうじゃ、名前を決めんとな』
「あぁ、そうだね。えっと・・・色々考えたんだよ」
『どうせ・・・ロクでもない名前じゃろ?』
「そんな事ないぞ!ちょっと待ってろよ」
子供を纏に返すと、奥の部屋から大量の半紙を持ってくる。ちょっとかっこつけて
筆で名前の候補を書いておいたのだ。
「ほれ、どうよ?」
『えーっと・・・かなみ、ちなみ、リナ、梓、和泉、勝美、静、優、遥・・・なんじゃこれは?』
「色々悩んだんだけど、やっぱり蛙の子は蛙だしと思って」
『・・・どういう意味じゃ?』
「あ、いや・・・母親に似て、可愛く育って欲しいって事だよ」
『お、お主にだけは欠片も似て欲しくないの。それこそこの世の不幸じゃから』
そういいつつも、ニコニコとしながら候補を見つめる纏。
本心でいえば、素直で真っ直ぐな、そして出来れば父親の事を大人になっても嫌わないでくれる
子になって欲しい。けど、どう考えてもそうはならないだろう、だって、親が親だから。
纏は纏で、母親になっても全然素直にならないし、俺も俺で、何だかんだ言いっても好きなんだよ。
素直に好きって言えないタイプの女の子が・・・ね。
すやすやと眠る我が娘を見ながら、遠くて近い未来に思いを馳せるのであった。

そんな感じで俺と纏の物語はここで一旦の区切りをつける。続きは気が向いたら・・・またの機会にな?

おわり


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